近衛と近衛内閣が選択した昭和30年代後半における重大局面は複数あり、三国同盟や日ソ中立条約や翼賛会結成や南部仏印進駐など、それぞれが日本が向かう方向性の幅を狭めるものばかりだったことを思うとその責任の重大さに驚愕を感じる。
では近衛の行動原理とは何だったのかということに本書では光をあてる。その行動原理から悪い判断が顕著に現れたのは第一次組閣時の盧溝橋事件以降の対応のように思われる。戦線の拡大を楽観視する陸軍やマスメディアや大衆に呼応して大陸への追加派兵を認め、最終的に第一次近衛声明に至る一連の経緯。それを俯瞰するにつれ、陸軍を獣にたとえて近衛の行動を「野獣に生肉を投じた」と評した同世代人の言葉はきっと的を得ているのだろう。
近衛が持つ教養主義が大正期のデモクラシックなものであれば、結果その政治方針が陸軍と同調した大衆を重視するポピュリズムに傾斜していくのも頷くことができる。
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- 感想投稿日 : 2014年5月1日
- 読了日 : 2014年5月1日
- 本棚登録日 : 2014年5月1日
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