変貌する民主主義 (ちくま新書 722)

著者 :
  • 筑摩書房 (2008年5月1日発売)
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本棚登録 : 317
感想 : 34
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2008年当時は意味ある言説だったのかもしれませんが、今となっては長々と語る割にはびっくりするほど薄い内容です。終戦後しばらくまでは、保守がその権力で大衆に対立する一方で、革新が民主主義の守護を声高に叫んできた。しかし今は現代版ポピュリズムにより、民主主義に対立するはずの新自由主義が大衆に支持されて問題だ、という内容です。
一読して著者が何を言いたいのか分かりにくいと思いました。理由のひとつは、民主主義に対して明確な定義がなされないまま、周辺の概念についてのマニアックな話をしているからです。最後まで読むとやっと熟議民主主義が著者にとっての定義や理想なんだろうな、とほのかに感じます。分かりにくいもうひとつの理由は、現在は膨大な戦後民主主義の分析があるにも関わらず、戦後の革新派が民主主義の擁護者であり、保守派がその排斥者であったと、旧態依然とした説明をしていることです。岸内閣の事例をもって論拠とするのは苦しいと思います。保守であっても自ら掲げるところの民主主義を否定せず、自らの権力の源泉にしてきたのではないでしょうか。今となっては程度の問題、また単なるイデオロギーの問題に見えます。このような雑な二項対立の持ち込みは、戦前に天皇主権と民主主義が対立したという記述にも見出せます。これら戦前戦後の様々な前提が崩れれば、著者のいう現在の「変貌する民主主義」の見方も必然的に変わるでしょう。
民主主義は議会制や政党政治などテクニカルなことを見つめても理解できそうにありません。本書で得たことは、民主主義とはその議論のためにどんな定義であるべきか追求せざるを得ない概念である、ということでした。

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感想投稿日 : 2017年4月23日
読了日 : 2017年4月23日
本棚登録日 : 2017年4月23日

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