日本文学100年の名作 第7巻 1974-1983 公然の秘密 (新潮文庫)

制作 : 池内紀  松田哲夫  川本三郎 
  • 新潮社 (2015年2月28日発売)
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感想 : 8
3

筒井康隆『五郎八航空』B
あは。いひ。いひ。気ちがい。

柴田錬三郎『長崎奉行始末』B
拾い子を差し出した上で切腹。
凄まじい美談だからこそ小説になるのだろうけれど。

円地文子『花の下もと』B
情感たっぷり。
あの人はあの人をパトロンにしながらあの人を恋していてパトロンはパトロンで誰かを補佐しながら誰かに手をつける。
この網の眼がある社会ならではの情感。

安部公房『公然の秘密』A
「当然だろう、弱者への愛には、いつだって殺意がこめられている」至言。

三浦哲郎『おおるり』B+
消化活動の最中に死んだ同僚を想いながら、暇に任せて鳥を買う消防団員と、そこに現れた女性。
そこに関係が潜んでいたら。

富田多恵子『動物の葬禮』A
指圧師のヨネ。水商売をする娘サヨ子。娘が持ち込んできたのは、キリンと呼ばれていた男の死体……。
ちっとも「いい話」にならないのが面白い。

藤沢周平『小さな橋で』B
父は家出。姉は駆け落ち。母は新しい夫を迎えようとする。
男女が「できた」という言葉がぽんっと軽快に挟まれて、味わい深い。

田中小実昌『ポロポロ』S
いやーこれは凄い話であり、凄い文章。
柔らかくて潤いがあり味わいのある文体。
大好き。

神吉拓郎『二ノ橋 柳亭』B-
架空の店を文章で発表する美食評論家。
その苦々しさを語り手が察知したところで、なんとその文章通りの店が出来た、と聴く。
なんだか説教くさい。美食に興味がないせいか。

井上ひさし『唐来参和』S
少しでも酒が入ったら言われたことに逆上して、逆をしてしまうという苛烈な酒癖の持ち主。
に、一度は嫁いだ女が語り手。
達観した女性なので小説化できている。逆に男が語り手なら距離がとれず上滑りするギャグにしかならないだろう。

李恢成『哭』

色川武大『善人ハム』A
戦争で勲章を受けてしまったために戦地で農民を殺してしまった。
それが夢に出てくる。いっさい自分を主張しない生き方をする。
こういう善さんについてはありがちといえばありがちかもしれないが、終盤、年取って結婚した妻がよい。
勘違いからもうすぐ死ぬと喚く夫に、ええもう駄目みたいね、でも安心して、一足先に向こうに行って、私も行くわ、と。
安心して死ねと言うんだとしょげる夫だが、妻は死ぬ人を勇気づけようとしていたのだ、と。
このちぐはぐさにちょっと感涙しそうになった。

阿刀田高『干魚と漏電』B
冷蔵庫の奥に干魚→漏電→探すと……
人情話が比較的多い中に唐突に差し挟まれた驚愕。

遠藤周作『夫婦の一日』B+
ふいに「これが人生だ」と感じる瞬間。小説の見本のような作品。

黒井千次『石の話』B
これは地味ーに嫌ーな話だ。

向田邦子『鮒』C+
ひどく虫のいい話でむしろびっくりした。

竹西寛子『蘭』B+
大切にしていた扇子を引き裂いて楊枝にするという場面よりも、
大事な人のお葬式にも出られないでひっそり働く女の人に気づいたり、
親が子のために大切なものを犠牲にしたのは人類の歴史の方々で起こっていたのだと気づいたり。
少年ひさしの気づきが新鮮で奥行きがある。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文学 /日本海外 アンソロジー
感想投稿日 : 2015年3月31日
読了日 : 2015年3月31日
本棚登録日 : 2015年3月2日

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