2012年4月に廉価版「天使」を読んで以下のように書いた。
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もっともっと凄まじくおどろおどろしいものを想像していたのだが、意外にポップ。
にやりにやりと口元が緩んでしまう。
しかしまあ、それだけかとも思う。
薄い夕暮れの中にさまよう程度のもので、別の世界や遠いところへ奪取していかれるほどのものでもない、小品たち。
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その後アンソロジーで出会ったり、え、Twitterとかブログとかやってんのと驚いて時々覗くくらいで、いい読者ではなかった。
が、この2021年5月15日にご逝去され、なんと山尾悠子が編んだというからには、読まずばおれまい。
「就眠儀式」「天使」収録の諸作では執拗に吸血鬼志向が描かれ、その徹底ぶりは凄まじい。
というか作者が楽しんで書いている感じがする。それがいい。
山尾悠子の指摘や作者自身の文章にもあるが、なるほどショートショートの隆盛に合致していたんだな、と知る。
しかし星新一や筒井康隆やの潮流とは全然違う、むしろ掌編小説と呼びたい、彫琢ぶり。
多少長めの「悪霊の館」では、導入が映画「汚れなき悪戯」っぽいと思いきや「耳なし芳一」っぽくなり、しかも架空の書物を翻訳したというてい。
(やや無理矢理かもしれないが皆川博子が「死の泉」で行ったのと同種の)「企んで書く喜び」に満ちている。
そして「聖家族」連作は、確かにこれほどの出来を単行本にできなかったのは無念だったろう。
個人的には技巧極まれりの意味で中井英夫「とらんぷ譚」を思い出した。
また「聖家族Ⅳ――ナボコフ・マニアのために」からは佐藤亜紀「バルタザールの遍歴」も連想した。
この連作は読んでよかった。
で、最後に配置された「青い箱と銀色のお化け――架空迷走報復舌闘・大正文士同窓会」で、終始にやにや。
稲垣足穂が登場したときは、花火のバラバラッバッラッという音と光を感じた。
もちろん作中に「マグネシウムの光とともに」と書かれていたからだが、ここでもまた作者の「企みの愉しみ」が、読んでいて届いたからだと思う。
「文豪ストレイドッグス」だか「文豪とアルケミスト」だかに足穂も出してほしいかと言われたらうーんと言うが、同趣向の架空対談を書く作者……やはり楽しそう。
なんとなく難解な印象を抱いていた作者だが、こんなに綺羅綺羅しい小説を愉しみいっぱいで書いてくれたこと、そして山尾悠子が思いたっぷりに編んでくれたことに、感謝したい。
あー面白かった。
(以下「就眠儀式」収録)
■契 Der Vertrag
■ぬばたまの Die Finsternis
■樅の木の下で Unter der Tanne
■R公の綴織画 Die Tapisserie des Herzogs von R.
■就眠儀式 Einschlaf-Zauber
■神聖羅馬帝国 Das heilige römische Reich deutscher Nationen
■森の彼方の地 Transylvania
*(以下「天使」収録)
■天使Ⅰ
■天使Ⅱ
■天使Ⅲ
■木犀館殺人事件
■光と影
■エル・レリカリオ
■LES LILAS――リラの憶ひ出
*(以下「悪霊の館」収録)
■月光浴
■銀毛狼皮
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■悪霊の館
■掌篇 滅紫篇
*(以下単行本未収録)
■聖家族Ⅰ
■聖家族Ⅱ
■聖家族Ⅲ
■聖家族Ⅳ
*(以下「世紀末少年誌」収録)
■蘭の祝福
*(以下「胡蝶丸変化」より、単行本未収録)
■術競べ
*(以下単行本未収録)
■青い箱と銀色のお化け――架空迷走報復舌闘・大正文士同窓会
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◇編者の言葉 山尾悠子
◇解題 礒崎純一
- 感想投稿日 : 2021年10月13日
- 読了日 : 2021年10月13日
- 本棚登録日 : 2021年9月17日
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