アール・ヌーヴォーの流行の最先端を行き、華麗な様式美を駆使したリトグラフの使い手であるミュシャの作品集。美術本は大きくかさばるイメージだが単行本サイズであるので、なんとも親しみやすい美術本である。装丁も上品に整っているし、ページごとの版画も色褪せることなく表現されている。
ミュシャの作品は一目で僕の心を射抜いた。中でも黄道十二宮は僕の一番のお気に入りだ。溢れ出る物語につい想像をめぐらしてしまう。彼が出世するきっかけは大女優・サラ・ベルナールの舞台「ジスモンダ」のポスター依頼が、工房の人間のほとんどが休暇中のため、彼に仕事が舞い込んだことによる。最初は工房主にその出来を、あまりにとっぴな作風のため、受け入れがたいものとされたが、当のサラはとても気に入ってしまったという。そして、ミュシャを一躍有名にさせた出世作「ジスモンダ」が世に出たのである。別の文献によれば、女優は闇の中の存在、つまり舞台でしか会えない存在であった。しかし、それを世の光へと開放せしめたのがミュシャのポスターであり、だれしもが街頭でサラに会えるようになったのだという。
また、パリ万国博覧会のためにミュシャが制作した「スラブ叙事詩」もまた圧巻である。これは迫害の歴史の持つスラブ民族の壮大な絵巻となっている。スラブとは奴隷を意味する英語slaveの語源となっている。奴隷といえば、黒人奴隷を想起しがちだが、白人で金髪碧眼の奴隷の確たる例がスラブ民族の奴隷にされた歴史であろう。ミュシャのスラブ民族にたいするノスタルジックな想いを感じ取ることができそうである。
- 感想投稿日 : 2014年10月1日
- 読了日 : 2014年10月1日
- 本棚登録日 : 2014年10月1日
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