自由と民主主義をもうやめる (幻冬舎新書 さ 6-1)

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  • 幻冬舎 (2008年11月1日発売)
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長い間、この本の刺激的なタイトルが記憶に残っていて、内容も興味深かったので読んでみた。ところが、本文では「民主主義や個人の自由も基本的には大事」とあって、だまされた感はある。ただ、前半の2章までは、保守と左翼の本来の意味、日本における左翼と保守の変遷、アメリカの保守がヨーロッパの保守とは異なることが丁寧に整理されていてわかりやすかった。

冷戦時代、左翼は革命を起こして社会主義を実現しようとする反体制派で、保守は自由主義的な資本主義を守ろうとする体制派だった。しかし、冷戦後、左翼は戦後日本の柱である国民主権、基本的人権、平和主義を守ることを主張する体制的なものに変わり、保守の側が戦後日本を変えていくことを訴えるようになった。90年代以降、日本の保守は親米保守が主導し、経済グローバリズムや構造改革を受け入れ、イラクへの自衛隊派遣など、日本を動かしてきた。

本来、左翼とは人間の理性によって社会を合理的に作り直してゆくことができると考える進歩主義的思想をもつ。保守はフランス革命の「自由、平等、人権の普遍性」を疑うところから出発した思想で、人間の理性には限界があり、過度に合理的であろうとすると予期できない誤りを犯すものだから、過去の経験や知恵を大切にして急激な社会変化を避けようと考える。社会主義は、理性万能と社会設計の思想をもつため、保守は警戒的だった。

一方、アメリカは建国の柱として個人の自由や平等という理念をもち、合理主義精神によって社会をコントロールすることができると考える徹底した技術主義、進歩主義の国。歴史も文化も異なる日米が根本的な価値を共有するとは言えないため、「親米保守」はおかしなものである。

歴史的な観点からは、グローバリズムの時代は良い時代ではない。大航海時代の16〜17世紀は、新大陸やアジアの物産の利権をめぐって激しく争い、ヨーロッパ社会は最も荒んで混沌とした時代だった。19世紀から20世紀初めの帝国主義の時代は、資本・人・モノの移動が今より激しく、世界的な大混乱から2つの大戦へと帰着した。

この本の本題の自由と民主主義については、「自由で何を実現し、どのような生活をするかは、日本の文化の問題」「民主政治によって国民の中にある文化や価値の重要なものが政治の場に表現されることが大事」と主張している。

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感想投稿日 : 2015年9月6日
読了日 : 2015年9月6日
本棚登録日 : 2015年9月6日

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