ヒトは環境を壊す動物である (ちくま新書)

著者 :
  • 筑摩書房 (2004年1月10日発売)
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感想 : 10
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著者は自然人類学の研究者。心の進化論、認知心理学、ゲーム理論などの観点から、道徳や倫理のメカニズムについて論じている。

生態学的に適切な集団のサイズとそのために必要な脳の大きさから、100〜150人程度の集団で考えた方が適切な認識ができるというのは興味深い。そうすると、地球規模の問題も細分化すればいいのかもしれない。その意味では、企業ごとに排出権を割り当てて取引を認めるキャップ&トレードは人間の行動メカニズムに適しているのかもしれない。

道徳や倫理をゲーム理論で説明できるという研究結果もおもしろい。進化論から考えても、最終的には個々人に有利になるメカニズムでなければ、成り立たないはずである。すると、人類が道徳や倫理という概念を持った理由(=必要性)はなにか?タカ派やエゴイストの存在に対処するためか?誰もが時に持ってしまうエゴの気持ちを抑制するためか?

本書では、人間が認識できる集団サイズを超えた問題には対処しにくいという人類の宿命を進化論の立場から説明しているだけで、地球環境問題への対応の仕方まではほとんど論じていない。ただ、道徳や倫理という、環境問題に取り組むための足がかりについて科学的に考えなおすには役立った。

・脳は体全体のエネルギーの16%を消費する。大きな脳を維持するために得た食物として、屍肉のほか、イモ掘り説が注目されている。
・群れることによって捕食される確率が低下するが、食物の取り分が減る。その損得が釣り合うところで集団サイズが決まる。群れが大きいほど脳の相対的なサイズが大きい。
・問題となる集団サイズを大きくすると、判断にフレーミング効果が現れる。考えるサイズを小さくすることによって、わかりやすくなる。
・道徳は、ゲーム理論における進化的に安定な戦略(ESS)のようなもの。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2012年8月28日
読了日 : 2012年9月5日
本棚登録日 : 2012年8月28日

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