この国の冷たさの正体 (朝日新書)

著者 :
  • 朝日新聞出版 (2016年1月13日発売)
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「今のあなたの状態は、全てあなたが招いたことです」
結果だけに、焦点を当て、過程や背景を見ない。
社会的に立場の弱い人や、失敗した人に向けて、厳しく本人を
追求、断罪するような、都合の良い強者の言葉、
それが、「自己責任」です。
この言葉は、今、日本社会で当たり前のように、
使われるようになりました。

今の日本社会は、どんなに頑張っても、努力しても、
報われない人を大量に生み出しているような気がします。

そういう社会状況を反映してか、
中高生を対象にしたアンケート調査によると、
現高校生の8割が日本の将来に対して、
悲観的な見方をしているそうです。
努力と幸福感が比例するとは、多くの若者が思っていないのでしょう。

和田氏の経歴を見ると、まさにエリートです。
氏は成功者ですが、弱者に対する、温かいまなざしを持っているように感じます。
エリートが本来やる役目をしっかり心得ているように感じます。

氏は、精神科医なので、様々なケースの患者さんを見てきたと思います。
その上での指摘そして社会分析ですから、大きく外れてはいません。
同情したふりして、適当なことをいう評論家とは違います。

あまり実感がありませんが、
法務省の統計を見る限り、日本の認知される犯罪数は減っています。
殺人、強盗、傷害、恐喝、窃盗という犯罪件数は減り続けています。
また、強姦、強制わいせつも、認知件数は減り続けています。
しかし少年による家庭内暴力は、ここ10年で約2倍(2531件)になっています。
また、高齢者(65歳以上)による刑法犯は、この10年で1.5倍ほどになっています。

一方、厚生労働省が発表した統計によると、
躁うつ病にかかる患者は94年時では43.3万人、14年時では111.4万人と、
20年で2.6倍になっています。
認知件数が増えたというよりも、私はやはり社会環境の変化によって、
絶対数が増えたと思います。

また、職場などで発生するパワハラ(いじめ、いやがらせ)などは、
かなり増加しています。

「どうせ自分には関係ないし」、「自分じゃなくて良かった」などの、
口癖が当たり前に使われるようになりました。
幸福感を発生させるものは、お金の他に、
家族、友人、他人との信頼関係だと思いますが、
少なくない日本人が利便性と効率性を追求した合理的な生き方、
個人の幸福を優先させる生き方を選択しています。
傷つくのが嫌だから、関わらないという選択です。
しかし、そういう生き方に疑問を持っている人はたくさんいます。

個人的には、
これからも、「冷たさ」は加速していくと思います。
それは、お金を稼げるモノは、良しで、
稼げないモノは、ダメという、
分かり易すぎるぐらいの無味乾燥な世の中です。

そういう方向性を感じている人は少なくないと思います。
和田氏も警告し続けていますが、いったん大きく舵を取った船を、
停めるのが難しいように、

日本社会は、これからも利便性、効率性を追求していくでしょう。
そういう社会で、どう、幸福を感じて生きていくのは、
至難の業ですが、手軽な解決方法はありません。

しっかりと、自分の頭で考えて、他者と協力しあって、
生きていくのが、ベターでしょう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年6月19日
読了日 : 2017年6月19日
本棚登録日 : 2017年6月19日

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