全員経営: 自律分散イノベーション企業成功の本質

  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版 (2015年1月1日発売)
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「失敗の本質」で有名な野中郁次郎の最新著書ということで、読んでみました。
(すでに今年になって2冊出版されているようですが)

まえがきから、この著書に込められた野中氏の問題意識がわかります。
”日本は(中略)あらゆるレベルで、世界に向けて柔軟に構想し、迅速に判断し、俊敏に行動していく組織能力が弱体化の傾向を見せていました。
また、欧米流の分析的な経営手法に過剰適応するあまり、分析過多、計画過多、コンプライアンス過多に陥るという現象が日本企業から活力を奪い、組織能力の弱体化に拍車をかけていました。”
このような問題意識のもと、彼が着目したのは近年成功した、もしくは復活を遂げたいくつかの日本企業、および組織の特徴から導き出した、
”一人一人が当事者意識を高め、実践的な知恵、すなわち、「実践知」を縦横無尽に発揮”する、『全員経営』という概念です。
その代表的な企業・組織として紹介されるのは下記8つ。非常に多くの具体事例を列挙しながら、全員経営とは何か?そのための組織のあり方、仕事のやり方などについて、示唆を与えます。

・JAL
・ヤマト運輸
・セブン&ホールディングス
・小惑星探査機・はやぶさプロジェクト
・釜石の津波防災教育
・テラモーターズ
・良品計画
・ダイハツ ミライース
(そのほか分量は少ないですが、最後の章で伊那食品工業、メガネ21、未来工業、三鷹光器、植松電機の5社についてもケーススタディがあります)

確かに、上記のいずれも企業も、社員一人ひとりが会社のためを考え、自律的に行動したことによって顧客満足や業績を伸ばしたように読み取れます。
これらの事象をベースに、著者によって概念化されたいくつかの視点が面白かったです。

1. 「ミドルアップダウン」

ビジョンや方向性を示すトップ、そして第一線の現場で実践するフロントに加え、これらの両者をつなぐミドルリーダーやミドルマネージャーが重要。ミドルがビジョン(トップ)と現実世界(フロント)の矛盾を統合していくことで新しいビジネスモデルが生み出される。

→ 現場感覚だけでは大局を見失うし、トップマネジメントだけでは抽象的すぎる故に、両者を仲介することができる能力を持ったミドルの存在の有無がキーということでしょう。

2. 「SECIモデルのサイクル」

全員経営が実践されている企業では、(野中氏の提唱する)SECIモデルのサイクルが回っている。すなわち、暗黙知が形式知される組織となっており、知識創造がマネジメントされている

→ あらゆる階層が普段から情報や経験を伝え・蓄える仕組みづくりが行われているような、質の高いコミュニケーションができているかどうかがキーだと思います。しかしながら、あらゆる階層で忌憚のない意見を言い合えるというのは、相当難しいことだとは思います・・・。

3. 「自己組織化するチーム」

組織やチーム内の管理−被管理の関係を超え、自分の役割と価値を理解し、自らを動機づけながら新たな知を生み出していく。自己組織化したチームは、主体的なコミットメントがメンバー各自の高質な経験に基づく深い暗黙知を触発する。
なお、自己組織化のためには、目標設定とストーリー作りが重要とのこと。目標設定はメンバーの誰もが「面白い」と共振、共感、共鳴するようなものであること。ストーリーは、色々な目標が有機的につながっており全体像が浮かぶ状態。各メンバーが、自分の立ち位置をストーリーに照らし合わせ、全体像の中でどのような意味、どのような価値を持つべきかを自覚できるようになる。

→ 良い目標が人を動かす、ということでしょうが、どんな目標が響くのか、というのはまさに十人十色。そこに関しては、後述する「コモンセンスの共有」ができているかどうかがキーなのだと思います。

4. 「サイエンスよりアート」

知識創造には、サイエンス、すなわち客観性やデータによる形式知だけではなく、アート、すなわち経験則や主観的な暗黙知の両面が重要。
釜石の防災教育の事例では、ハザードマップを用いた避難のルール化ではなく、「想定は信じるな」「その状況下において最善を尽くせ」、そして「率先避難者たれ」という3つの原則が教え込まれたとのこと。特に3つ目の「率先避難者たれ」は、見方によっては他人を差し置いて自分だけが助かろうとする反倫理的な原則であるが、その本質は「自分が勇気を持って逃げれば、周囲も同調する。だから自分の命を守るということは、みんなの命を守るということ」。

→ ルールや知識だけではなく、「生き方」というアートの教育を行うことで、不確実性の高いカオスな状況において状況判断する力が身につくらしい。

そして、全員経営実現の上で私が最も重要だと感じたメッセージは、その企業や組織が「何を大切にしているのか」という『コモンセンスの共有』です。社員一人ひとりが自由に行動するにしても、その企業や組織にとって「何が正しいのか」によって取るべき行動や得るべき成果は異なるはずだからです。『価値観の共有』と言っても良いかもしれません。
また、コモンセンスは「存在論」を問うものであり、存在論が共有されているのであれば、ルールや規則で統制する必要もなくなる、と述べられています。オーバーコンプライアンスの状態にある日本の組織から再び活力を与えるためにも、コモンセンスの経営を実践すべきであると具申しています。
一人の天才やカリスマ性に頼るのではなく、チームの有機的な結合により成果を出していく。全員経営は、まさに日本人が本来得意とするプレースタイルなのではないかと考えます。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: お勉強
感想投稿日 : 2017年6月6日
読了日 : 2017年6月6日
本棚登録日 : 2015年12月30日

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