中国経済 あやうい本質 (集英社新書)

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  • 集英社 (2012年3月16日発売)
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中国の舵取りの難しさの根底には、新興国だった頃の日米欧には今ほど問題とはならなかった、グローバル経済化した現代特有の条件をこなしていかないといけないところにある。逆に言えば、中国を知ることは、同時に、中国を通して見えるグローバル経済の実体を知ることに繋がる。例えば、著者があげるように、バラマキ政策が世界金融危機対策の有効手段となり得たくらい、不足しているインフラという自国の古典的問題に対処しつつ、環境という現代の問題にも並行して取り組むことを求められる。その一方で、大きな成長を求めようにも、「世界の」工場である中国は、自力だけでは及ばず、外国資本に頼らないといけない側面がある。
それでも、その困難をなんとか一輪車経済でここまで振り切ってきた中国。上手くやってきたとも言えなくはないが、勢い重視の政策に弊害は勿論のこと山積で、特に貿易立国の大事な資本であると同時に消費の潜在需要となり得る国民の行動の変化は国家としても一大事だと思う。著者が言うように「自分達が作る製品はまさに豊かさの象徴のようなものなのに、それを目の当たりにしながら、そこで働く自分達は前世紀のような労働環境に甘んじることを強いられる」それを感じる人々の葛藤は相当なものだろう。スト権を持たない民衆が蜂起したり、ネット規制の効力が減衰していく実態は、国家の瓦解の一角が垣間見える気がする。
ただ、「ヒト」の問題は自分にも遠い話ではないことも示唆されている。
グローバル経済下で企業が最適解を求めて生産配置をリシャッフルすれば、ある国では雇用の空洞化問題が起こるということ。著者が「まるで万華鏡のよう」とセンス良く例えていたこの事象は、一人一人が保持しておくべき危機感だと感じさせられた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2013年6月2日
読了日 : 2012年5月6日
本棚登録日 : 2012年5月6日

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