シャープ崩壊: 名門企業を壊したのは誰か

制作 : 日本経済新聞社 
  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版 (2016年2月1日発売)
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シャープと言えば、シャープペンシルを発明いた会社として有名かと思いますが、液晶事業が大当たりして「液晶のシャープ」と言われるようになるまではソニーやパナソニックの後塵を拝する1.5流の家電メーカーというのがボクの印象です。
しかしながら、液晶テレビ以外にも、電卓(1964年)、オーブンレンジなど世界初の製品を世に送り出してきた企業だったりしています。米電気電子学会(IEEE)から技術分野の歴史的な業績をたたえる「IEEEマイルストーン」に電卓、太陽電池、14インチ液晶モニターの3つの製品が選ばれていて、この賞を3度も受賞するのは日本企業として初めての快挙だそうです。
シャープは、世間(ていうかボク)のブランドイメージとは裏腹に、技術力、研究開発力を元来備えていた会社だったようです(液晶ビューカム(1992年)やヘルシオといったヒットもとばしてるし)。
さらに財務基盤も盤石でした(過去形だけど)。シャープの財務体質は、第二次世界大戦後の一時期を除けば健全で、無借金経営が続いていて、90年代前半の自己資本比率はおよそ50%。財務指標は極めて優良です。

それでは、技術もあり財務基盤も盤石なシャープの凋落を招いたのは何だったのかっていうことですが、それはシャープのブランド力を世に周知させた液晶事業への過剰投資が発端でした。町田社長(4代目社長)時代の亀山工場への投資もかなり大きな投資でしたが、片山社長(5代目社長)時代の堺工場への超巨額投資の失敗、その後の社内の権力抗争とそれに伴う戦略なき経営によって、シャープは抜き差しならない状態に陥っていきます。
具体的には2009年に堺工場が稼働するも、地デジ特需の終焉と円高が相まって、2011年には液晶事業の収益が悪化し、2012年には巨額の赤字を計上して経営陣は引責辞任。リーダーシップのない軽い御輿を社長を祀り上げ、院政の覇権を争う内向きの権力闘争に夢中になり、危機を脱する為の貴重な時間を無駄に浪費してしまいました。
正直アホ過ぎます。国策による地デジ特需は利益の先喰いだってことはまともな知能がれば誰だってすぐ分かるのに、液晶パネル(テレビ)に集中投資してしまった愚は弁解のしようがないと思います(「液晶の次も液晶です」とか言ってたし)。あっ、ちなみに日本からのテレビの輸出は1985年以降は微々たるものだったようです。

ついでに地デジ特需の折、パネル受給が逼迫するなかで、自社製テレビへの供給を優先し、外販に回すパネルの量を制限してソニーや東芝を激怒させたという、どこの途上国よという感じの振る舞いにはあきれて何も言えません。取引先より会社の都合を優先し、商談中でも上司から呼び出しがあると席を立つのも半ば常識というエキセントリックな社風で、下請け企業に対しては執拗に部品の値下げを迫り、横柄な態度で接するシャープの悪評は、地元の関西地域ではよく知られていたそうで、取引先を「おまえ」呼ばわりし、怒鳴り散らすのは当たり前という「下請けいじめ」の常連だったようです(下請法に抵触しないのか?)。これが一部上場企業のすることかと思うとガッカリです(なので、経営危機に陥っても内資系企業はどこも助けてくれなかった)。

こんなあきれた社風を改善するためか、高橋社長(7代目社長)は社長就任早々に過去の権力者達と決別し、権力を社長に集中させて、ホンダのワイガヤを模倣しり、「さん」付け運動等を実施して企業風土改革をはかりました(このご時世で「さん」付け運動始めるとか、どんだけ社内風土が周回遅れしてるんだよって思います)。しかしながら、業績がちょっと回復すると危機感が喪失してちょっと調子に乗ってしまいます。で、結局、再び赤字に転落し、挙げ句の果てには自己資本比率は10%を下回り、有利子負債は1兆円規模になってしまいます。で、従業員を人切りし、業績悪化の責任は仲の良くないボードメンバーに押しつけ、自身とそのお仲間(仲良し3人組)はちゃっかり残留します、メインバンクの傀儡として(まぁ、企業風土改革って一番難しいよね。一朝一夕できるわけがない)。
ついでにこの高橋社長が面白いのは、3千人超の希望退職者が会社を去った翌日に「人が重要だ」という内容の社長訓辞を出す正に目の付けどころが斜め上なセンスです。
創業者の早川徳次は社員を家族のように大切にしたと言い、「和は力なり、共に信じて結束を」を地でいく経営をしてきたようですが、現経営陣は部下や一般社員に詰め腹を切らせ、自身は銀行の言いなりになり保身に汲々としているようにしか見えません。一番無能なのは、破綻必死の状況になるまで無策であったトップ・マネジメントだというのに。

さて、ここまでシャープの転落ぶりをなぞってきて何か思い出しませんか?

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。
おごれる人も久しからず。ただ春の夜の夢のごとし。
たけき者も遂にはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。

平家物語の冒頭にそっくりじゃね?

ってオレは力強く思いました。

シャープと言えば、「目の付けどころが、シャープでしょ。」のスローガンが長らく使われてきましたが(2010年から「目指してる、未来がちがう。」に変わったけど)、ネットの世界では「目の付けどころが斜め上」などと揶揄されたりしています。だって、

デジタル複合機用プラズマクラスターイオン発生装置とか
「ともだち家電」シリーズとか
健康コックピットとか
極めつけは、ロボット型スマートフォン「RoBoHon」とか

誰がターゲットだよ?

って思いません?

シャープは、
経営危機によって独創的な家電商品を生み出す余裕が現場から消えた。
消費者ニーズを最優先して商品を開発するという良さがなくなった。
自由闊達さがなくなった。
なんて言われているようですが、斜め上ばかり見ているようでは経営再建は夢のまた夢でしょう。

結局はあだ花だった液晶事業のかりそめの成功に浮かれ、
傲慢で不遜になり、
身の丈に合わない金の使い方をして、
失敗すると社内抗争に明け暮れて、
責任は部下にとらせ、
今までのツケが回ってきて、誰も助けてくれないとか
シャープの凋落は必然だったんじゃね?って思います。最終赤字が2500億になって債務超過になりそうだとか報道されてるけど、自業自得感でいっぱいです。

それでは最後にシャープの最も痛々しい話を一つ。
シャープのナンバー2のの長谷川祥典専務(コンシューマーエレクトロニクスカンパニー社長)は、シーテック(映像、情報、通信の国際展示会)でスティーブ•ジョブズのone more thingを真似してモバイル型ロボット電話RoBoHon(ロボホン)のプレゼンをしたそうです。実際見た訳じゃないけど、どんだけ罰ゲームなんだよって思いました。痛々し過ぎますよ。そもそも誰得なの?誰が欲しいの?税込みで20万超えてるんですけど。

ドリフのいかりや長介ばりに

ダメだこりゃ

そう思いました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ドキュメンタリー
感想投稿日 : 2016年5月28日
読了日 : 2016年5月28日
本棚登録日 : 2016年5月28日

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