NOISE 下: 組織はなぜ判断を誤るのか?

  • 早川書房 (2021年12月2日発売)
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上巻の方では、ノイズとは何かについて紙幅が割かれていた。
今回の下巻の方では、ノイズを防ぐ方法について言及されている。
本書(上下両巻)を読んでいくと「ノイズは厄介だ!良い判断をするためにも、全ての意思決定プロセスを厳しく取り決めよう!」という発想に陥りやすい。たしかに、筆者たちは「判断ある所にノイズあり」と繰り返し訴えている。ノイズが意思決定において好ましくない存在であることはその通りなのだ。その領域が、医療業界など、専門性の高い分野なら尚更のことである。
しかし、全ての判断をアルゴリズムやAIに委ねることも危険だと筆者らは言う。結局のところ、最終的な判断は人によって下されることが望ましい。筆者らが訴えるのは、最終判断を下すまでの過程に問題があるということなのだ。
ノイズを減らす方法として、筆者たちは「判断ハイジーン」という手法を提供している。ハイジーンというのは日本語で「衛生管理」を意味する。本書を読めばわかるが、往々にしてノイズの存在は気付きにくいもので、それゆえに対策をしたところで明白な効果が出ているかどうかが分かりにくい。が、確実にノイズによる影響は存在するし、それが悪いものなら対策をするに越したことはない。これは、私たちが日常的に行う「手洗い」と似たようなものだ。手にどんな菌が付着しているかわからないけれども、手を洗えばそれらの菌は消滅する。
このように、ノイズ対策と手洗いは、悪影響をもたらす正体が不明瞭だがそれが悪い影響をもたらすのは確実なので事前に対策をしたほうが良い、という点で非常に似ている。それゆえに「ハイジーン(衛生管理)」という名前がつけられた。
下巻では「判断ハイジーン」における6つの原則が紹介されている。良い判断を下すためにはこれらを遵守することが求められる。

原則1
判断の目標は正確性であって、自己表現ではない

原則2
統計的視点を取り入れ、統計的に考えるようにする

原則3
判断を構造化し、独立したタスクに分解する

原則4
早い段階で直感を働かせない

原則5
複数の判断者による独立した判断を統合する

原則6
相対的な判断を行い、相対的な尺度を使う

以上の原則を守れば、良い判断が下せる可能性が高い。本書における最重要部分はこの原則だと言えよう。この部分さえ意識し判断を行えば御の字である。
人は往々にして自分の力のみで判断を下したい生き物だ。しかしそれは自分が懊悩して出した結論に対する自分へのご褒美のようなものだと筆者たちは指摘する。その判断がたとえ気持ちの良いものであったとしても、そのことが優れた判断だと言える根拠にはならない。
しかし、悲しいかな、彼らはその快楽に浸りたいために、意思決定プロセスにおけるノイズの削減を拒む。それが最悪の状況を招く可能性があったとしても。挙句の果てには、ノイズの削減はコストが嵩むなどと主張して己の怠慢を正当化する。
実際、ノイズの削減には多くの批判が投げられ回避されていきたと筆者は言う。たしかに、判断ハイジーンのみならず、アルゴリズムやAIですら間違うことがある。だからと言ってノイズ削減を怠るのは優れた決定者としてあるまじき行為だろう。良い意思決定者として行うべきは、ノイズを削減する効果的な方法を模索することなのだ。断じて、それを等閑にすることではない。
本書の最後では、筆者らがノイズのなくなった世界を夢想する。その世界では、「無駄な支出や損失が大幅に減り、公共の安全も健康も改善され、何より公平性が向上して回避可能な多くのエラーが防止される」そして、この世界に少しでも近づくために「ノイズ」という厄介者に目を向けてほしいと読者に訴えていた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年2月16日
読了日 : 2022年2月14日
本棚登録日 : 2022年2月14日

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