学力を問い直す: 学びのカリキュラムへ (岩波ブックレット NO. 548)

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  • 岩波書店 (2001年10月19日発売)
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<u><b>学力危機を問い直せ!</b></u>

<span style="color:#cc9966;">大学生の学力低下の指摘に端を発した学力問題論議は,大学の受験科目のあり方から,大きくは子どもの教育目標を何におくかというものまで,さまざまなレベルで混乱を深めている.ゆとり教育の悪弊か,実際に学力は落ちているのか,そもそも何を指標に議論されているのか.学力論議のもつれを解く. </span>

ちゃんと分析を加え、新しい視座を与える教育学の本は、なかなか少ない(ような気がする)。世間一般で言われているようなことを、まとめて書いてあるだけの本も多い。現場を見ずにただただ理論を並べたてる本も多い。ただし、この本は違う。現場から離れたところで冷静に“現場”が分析されている(まぁ、筆者は大学の教授ではあるけれども)。これこそ教育学だろう。それにしても、この本は2001年初版らしいが、実情は未だ変わらずと言うのが、なんともなぁ。
大人の教養の衰退の方がはるかに深刻というのは、確かに耳は痛いが、事実でしょうね。子どもの「学力低下」心配している場合じゃないぞ、大人!というところだね。

以下、内容メモ[more]

<blockquote>
<b>目次</b>
一 混乱する学力問題
二 学力の実態ー何が問題か
三 危機の背景ー「学力神話」の崩壊
四 「基礎学力」の復古主義をどう克服するか
五 習熟度別指導、少人数指導は有効か
六 子どもの「学び」を支えるために</blockquote>

<b>●「学力低下」と言われているものは、むしろ「カリキュラムの低下」</b>


<b>●学力の危機をめぐる様相</b>
 ?日本の小中学生の学力は、国際的な比較では、かつてより低下はしているが、今もトップレベルを維持
 ?<u>一般市民の「科学的教養」「科学に関する関心」は先進諸国の中で最下位</u>
 ?日本の小中学生は創造的思考が弱い
 ?<u>「学びからの逃走」(=勉強嫌い)の深刻化</u>
 ?「学びからの逃走」「学力低下」は社会的に低い階級と階層ほど激しく作用。男の子よりも女の子に強く作用。
 ?大学生の学力低下

<b>●学びからの逃走は、東アジアの国々に特徴的な現象</b>
しかも<u>学力成績において、一位から五位までを独占している国々</u>(シンガポール、韓国、香港、台湾、日本)。
「圧縮された近代化」の途上においては、大多数の子どもが学力をつけ上級の学校に進学することで、親よりも高い教育と社会的地位を獲得(東アジア型の教育)していた。

<b>●学力問題の核心は「東アジア型の教育」の枠を抜けだし、新しい社会に対応した学力の再定義、価値を取り戻すか</b>
しかし、アジアのそれぞれの国では、日本と同じように教育内容の削減や総合学習の導入「知識・技能」から「関心・意欲・態度」を重視した学力観の創造…どの国も有効な活路を見いだせずにいる。
→二項対立の概念構図から抜け出せ!
「知識・技能」vs「関心・意欲・態度」、「教え」vs「学び」、「教師中心」vs「子供中心」など

●<b>アメリカの「back to basics(基礎に帰れ)」運動の失敗</b>
教訓→「基礎的な知能や技能は、反復練習によって習得されるよりも、むしろ経験によって機能的に獲得される」
ex:<u>漢字の嫌いな子に、漢字をノートに反復練習させるより、その子が気に入りそうな本を多く読ませ、漢字に触れ親しみ、使用する機会を増やす方が有効。</u>

<b>●「基礎学力」に関する誤謬</b>
基礎から順番に積み上げていくイメージ。
学力は基礎から上に積み上げて形成されるのではなく、逆に上から引き上げられて形成されていく。
ex:ヴィゴツキー「発達の最近接領域」と「内化」の理論
<u>「学力」を形成するためには、自分のわかる(できる)レベルにもどって積み上げてゆくのではなく、自分のわからない(できない)レベルの事柄を教師や仲間とのコミュニケーションをとおして模倣し、それを自分の中に「内化」することが必要</u>

<b>●効果の疑わしい「習熟度別授業」</b>
?公立学校は教科を学ぶところであるだけでなく、多様な考え方や個性を学ぶところであり、多様な能力や個性をもった人と共に生きる<u>民主主義を学ぶ場所</u>
?<u>教師が増えなければ、組織が煩雑になるだけでかえって指導に困難が生じる</u>
?実際問題として、学校は塾や予備校のように、個々人の「到達目標」ではなく、教育内容の「主題」を中心に組織されており、多様な能力や個性の子どもが共に参加して学び合うように授業が進められている

<b>●「少人数教育」はどう導入されているか?</b>
四〇人学級よりも、少人数教育の方が効果あるに決まっている
ただし、文科省が推進しているのは、<u>それに見合った教師の数を増やして実現しようとしているのではない。</u>
非常勤講師を増やして実現させようとしているのみ。

<b>●「勉強」の世界から離別し、「学び」の世界へ</b>
四〇人学級の改善、教科書の改善(欧米のように学校の備品にして、現在の予算枠で一冊あたり四倍の予算を充てる)、子どもに対する評価の廃止、教室の子供相互の学び合う関わりを豊かにする、高校入試の廃止、大学の教育教養の充実、学校の教師が大学院で学ぶ機会を増やす、生涯学習の保障

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 教育・学校・子ども
感想投稿日 : 2018年10月8日
読了日 : 2009年10月18日
本棚登録日 : 2018年10月8日

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