太公望 中 (文春文庫 み 19-10)

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  • 文藝春秋 (2001年4月10日発売)
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<b><u>革命とは、新しいことばを必要とする</u></b>

<blockquote>妻子を得て春陰にたたずむ望の胸中には、焦燥あるばかりであった。周公を中心に諸侯は策謀しつつある。しかし独り時代の先を視る望の苛烈な生は、人知れぬ哀しみにみちていた。ひとは己れを超えねばならぬ、あたかも小魚が虹桟を渡り竜と化するように。利に争うものは敗れ、怨みに争うものは勝つ、そしてそれを超えるとは。
</blockquote>
「新しい言葉が欲しい。」私のなかにの革命を起こす時期にきているのか、そういう焦燥感がページをめくる指を急がせた

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<blockquote> たしかに彪の性格は善良さに満ちたものではなく、素直さに欠け、人を傷つける拗強さをもちつづけている。集団で生活するのが人の常態であるとすれば、彪はそれにむかない孤独をもっているといえる。おそらく彪はそういう自分にいらだつことがあり、たくみに人にうちとけてゆけない不器用さを哀しんだのではないか。
彪は口では大きなことをいうが、じつは小心である。それも望にはわかっている。望とすれば、自分を空想している彪を真の彪に会わせてやりたいと考えていた。それをたれかがしないと、彪はついに自己を知らずに、自分という幻影のなかで死ぬことになる。
虚しい。
人にとって何が虚しいかといえば、そのことがもっとも虚しい。一生のうちに真実がひとつもなかったということである。彪の一生がそうであってもらいたくない。
ー彪はいま苦しんでいるであろう。
望はそうおもう。奴隷の生活は暗昧のなかに沈みきっているにちがいない。が、足もとの小石に希望の光をみつけてほしい。闇のなかに光をみつける努力をしてほしい。それをする者は生き、それをしない者は死ぬ。この世もおなじである。</blockquote>

[more]

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<blockquote>「詠よ。ひとついっておく。彪がもしもわたしの下にいる者を殺そうとしたら、わたしが彪を斬る。そのとき、詠は彪をかばうか」
「かばいます」
「わかった。わたしが詠に願うのは、そういう自分を裏切ってはならぬということだ」
詠ははっとしたようである。
横できいていた参はしずかに一笑し、
「なるほど、望どのはすぐれた長だ。その大器を蘇侯は看破なさったのか」と、話題を転じた。</blockquote>

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説・韻文・物語・古典
感想投稿日 : 2018年10月8日
読了日 : 2014年4月11日
本棚登録日 : 2018年10月8日

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