増補 思春期をめぐる冒険:心理療法と村上春樹の世界 (創元こころ文庫)

著者 :
  • 創元社 (2016年12月15日発売)
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感想 : 6
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心理療法家が村上春樹の小説を心理学観点から読み解く視点が快適。春樹自身が「伝えたいメッセージがあってそれを表現しているわけではなく、自分の中にどのようなメッセージがあるかを探し出すために小説を書いている」と述べたとの引用がある。まさに同感である。それが自己治癒、つまり癒し効果を与えているということなのだと思う。それが異界から見た自分を追求するという不思議なデュアルの世界を描くこの人の特徴なのだろう。それが読みながらの快感の遠因になっているように思う。10歳の子供が多く登場すること、死んでいく人が多いこと、セックスをしたという表現が多いことなども心理深層に迫る象徴的な意味があるように思う。心に傷を負った人物が多く登場する。この本のタイトが示しているものが、「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」そのものだ。
巻末の三浦しをんの解題に、またスッキリさせられる。《すぐれた「物語論」にもなっている。ひとは物語を求める生き物だ。小説や映画といった創作物を味わうだけでなく、日常生活のなかでも、なんらかの物語を必要とする。物語とは「意味」だからだ。・・・物語を真に味わい、個々人が日常の中で深く物語を紡いでいくことは、人の心にいい影響をもたらす。物語とは異界へと通じる「井戸」、トンネルのようなものだ。・・・心身に余裕をもたらし、自他の感情に深く触れ、人間関係を誠実かつ実り豊かに構築していくために、非常に重要。》

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本文学
感想投稿日 : 2017年4月7日
読了日 : 2017年4月5日
本棚登録日 : 2017年3月30日

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