ネット大国中国――言論をめぐる攻防 (岩波新書)

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  • 岩波書店 (2011年4月21日発売)
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 本書の「中国におけるネット事情」を読んで、現在の中国の複雑な事情が明らかになる思いを持った。
 中国の現状は一般にいわれているような単純な共産党独裁政治とは、明らかに違う。西側世界においても「ネットは世界を変える」と言われていたが、中国においても、西側世界とは違う形で「世界を変えて」いた事が本書でわかった。
 「2008年の東シナ海ガス田開発合意」においては、日本においてもいろいろと議論があったが、当時中国のネット世界で胡錦涛政権に対する「売国奴」というネット言論が「炎上」していたとは驚く。
 中国は、ネットに対応する「万里のファイアーウォール」を築き上げて、それを押さえ込んだというのだ。
 なるほど、中国において、「網民(ネット市民)」は2010年にすでに4億5700万人、人口の34.3%にものぼり、急拡大している以上、言論のコントロールは、そうたやすくできるものではないことには、頷ける。
 それに、1980年代・90年代生まれのわがままいっぱいに育った一人っ子の「小皇帝」の「80后・90后」世代がネット言論を支配する。それを「万里のファイアーウォール」で必死に押さえ込んでいる中国政府の姿が本書で浮き彫りにされている思いがした。
 確かに中国は一党独裁の共産党政権ではあるが、これは民主主義のひとつのありかたかもしれない。
 少なくとも中国の政権指導部は「天安門事件の再来」を非常に恐れている。政治が混迷すれば、中国の現在の繁栄はなくなることは、誰の目にもあきらかだからだ。
 本書を読んで、日本の現在の状況を振り返らざるを得ない思いを持った。デフレ経済はすでに20年を越えても一向に脱却できない。総理大臣はここ10年で何人変わったかすぐに思い出すこともできないほど人数が多く、まともな政治ができていないことは明らかだ。
 それに対し、中国の国家主席は「最低5年、最長10年そのポジションが保証される」という。一体どちらが政治体制として優れているのかとの思いを持った。
 本書は、すでに中国はよく理解できない特殊な国ではなくなったと、教えてくれる良書であると思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2012年6月18日
読了日 : 2012年6月18日
本棚登録日 : 2012年6月18日

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