暴走検察

  • 朝日新聞出版 (2010年4月20日発売)
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 本書は、週刊朝日に掲載された「小沢vs東京地検特捜部」の戦いを記録したものであるが、政治的案件を週刊誌ネタとして扱ったものとして、興味深く読めた。
 小沢一郎が衆議院議員として政界にデビューしたのは、昭和44年(1969年)27歳の時である。47歳時に自民党幹事長に就任し、その後も常に政界の中心で活躍していた古いタイプの政治家であると思う。当然、金のうわさは付きまとっていたが、政治の師・田中角栄のロッキード事件での失脚や、金丸失脚を目の当たりに見てきているわけであるから、当然、簡単に法の適用を受けるような無防備な政治家ではないと思う。
 本書は、2009年3月から2010年4月にいたる、東京地検と小沢一郎の戦いの経過を詳細に追ったものであるが、「小沢擁護派?」であるマスコミ界の異端児・上杉隆の筆によるだけに、東京地検に厳しいものとなっている。
 本書を読んで感じたのは、「東京地検の劣化」である。東京地検がいかにして事件を立件していくのかというやり方は、村木厚子厚生労働省元局長の郵便不正事件で、既に明らかになっており、同事件は無罪と検察の全面敗北となっている。同事件の追跡調査で東京地検は、「スジ屋」ともいわれる部門が事件のスト-リーをつくり、それにあわせて容疑者の供述を取るやり方が明らかとなっている。容疑者がストーリーどおりに、供述をしなければ様々な圧力で「落とせる」検事が出世する優秀な検事というわけだ。しかし、捜査の中でそのストーリーが間違っていることが明らかであった時に引き返すことができない組織的腐敗が郵便不正事件で明らかになったと言える。
 さて「小沢事件?」の場合はどうなのだろうか。本書で詳細に追いかけている内容を読んだ限りは、小沢一郎は限りなくシロである。検察は陸山会事件を2010年2月に「不起訴」としたが、検察審査会は2011年1月に強制起訴とした。しかし、その後の報道をみると石川供述調書での脅迫・誘導の事実や、献金事実がないゼネコン聴取記録の検察審査会への未提出等々を見ると、本書の「暴走検察」の指摘は正しいと思わざるを得ないと思った。
 本書は、東京地検の劣化と腐敗を明らかにしていると思うが、なぜ「法の支配・正義の追及」の組織がこのような状態に成り果てたのかの考察と今後のあり方も知りたかった。それはジャーナリズムの仕事ではなく政治の仕事であるのだろうが、現在の政治の状況ではそれは難しいとも思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2012年3月2日
読了日 : 2012年3月2日
本棚登録日 : 2012年3月2日

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