激震経済

  • 中央公論新社 (2010年8月1日発売)
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感想 : 7
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 本書は読売新聞社が、連載したシリーズ記事「激震経済」をもとに編集した本である。全国新聞社が取材しただけあって、2008年から2010年にいたる「トヨタリコール問題」「JAL破綻」「リーマンショック」「GM破綻」について、詳細な経過を取り上げている。リアルタイムで危機の進行を見るのとは違い、改めてその背景と問題点を含めてじっくりと検討できる点は評価できると思う。
 ただ「トヨタたたき」については、その経過は詳細なのだが、起きた原因への突込みがない。本書を読んでもアメリカで、なぜこんなことがおきたのかが良くわからない。おそらく関係者への配慮なのだろうが、大新聞社ともなると書けないこともあるのだろうか。
 「JAL破綻」については、民主党の対処への批判がその大部分をしめている。破綻への長い道が自民党政権時代に進んでいたことを思うと、ちょっと政治的過ぎるのではないかと思う。
 「リーマンショックとGM破綻」はわかりやすかった。とくに経済的政策判断が、大統領選挙と下院議員選挙の影響を受けたとの本書の指摘は興味深い。トップが高額の報酬を得ている米金融業界への公的支援は、たとえ金融システムを守るという目的であっても政治的には不人気であり、それに影響されたというのだ。これは、日本におけるかつての宮沢内閣の住専問題を思い起こさせる事態だ。民主主義国家においての経済的に必要な政策とポピュリズムとの軋轢は宿命なのだろうか。
 「どうなる世界と日本」では、現在まで続く危機を総花的に羅列しただけという感じを持った。問題を指摘しただけでその本質や今後を語らないのでは、本としては竜頭蛇尾のような気がするが、報道機関としては報告だけでも十分なのかもしれない。
 最終章の読売新聞社の「緊急経済提言」は、まったく評価できないと感じた。
 「マニフェスト不況を断ち切れ」では「ばら撒き政策をやめるべき」「消費税10㌫引き上げ」と主張しているが、デフレ経済を脱却するには需要喚起が必要なのではないだろうか。消費税上げは明らかに需要減退の要因となると思う。
「雇用こそ安心の原点」と主張しているが、その一方で「派遣は悪という単純な感情論を排す」と派遣禁止の労働者派遣法の改正に反対している。わけのわからない主張としか言いようが無いと思う。
「内需と外需の二兎を追え」は、相当に無理な主張なのではないか。本書で展開しているようにアメリカもヨーロッパも経済危機は進行中である。そこに売り込む外需を増やすことは常識的にも難しいことは明らかなのではないだろうか。また日本の内需はデフレ下で落ち込む一方である。読売新聞の「緊急経済提言」は具体性と説得力が無いと思わざるを得ないと感じた。まあ、報道機関としてはいろいろ気を使わなければならない方面が多いのであろうが、このような整合性が感じられない「提言」はしないほうが良いと感じた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2011年11月9日
読了日 : 2011年11月9日
本棚登録日 : 2011年11月9日

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