満鉄調査部: 「元祖シンクタンク」の誕生と崩壊 (平凡社新書 289)

著者 :
  • 平凡社 (2005年9月1日発売)
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感想 : 13
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 「満州国」と言う言葉は、日本では「残留日本人孤児」等を思い起こす暗いイメージの響きを持つし、中国ではいまだに「偽満州国」という完全否定の評価しか帰ってこないが、昭和戦前期に日本の隣に「国家」として厳然として存在したものである。
 しかし、失敗した歴史を語る人々は少ないのか、「満州国」についての本は少ないように思える。本書はその満州国の「満鉄調査部」を取り上げた本である。
 満州国において国策会社として「満鉄」という巨大コンツェルンが存在し、その一機関として「調査部」というシンクタンクがあり、多くの優れた頭脳が様々な施策を研究・提案していた事実は興味深い。そもそも日本においては「シンクタンク」という頭脳集団は当時ほかにはなかったらしい。
 常々、日本はなぜ中国という大陸にのめり込んでいったのかとの疑問を持っていたが、本書で明らかになっているのは、「満鉄調査部」の活動の対象は、「満州進出の是非」ではなく、「いかにして効率的な国家体制をつくるか」だったようだ。しかし、これだけの知性の集合において、日本の中国進出にブレーキをかける思考は出なかったのだろうか。
 本書では、どのようにすれば効率的に国家体制が整備されるかの分析と計画立案が、詳細に明らかにされている。しかしこれを読むと「計画経済」の社会主義体制とどう違うのかとの思いを持った。
 そうか、これが「近衛文麿」が戦争末期に昭和天皇に「軍内に社会主義者がいる」と主張した背景なのかもしれないと思えた。
 現在から歴史を振り返ってみると、中国において今でも何かあれば吹き上がる「反日の嵐」を見てもわかるように、過去の日本の大陸政策が誤りであったことは間違いがない。では、どこでどのようにして誤ったのかについては、いまだに統一した知見は確立されていないように思えるが、本書は、当時の日本がどのようにして満州国で活動したのかがよくわかる本であると思う。
 本書は、「満鉄調査部」の実態をよく知ることができる良書であると思うが、満州全史を扱っているわけではないので、全体像がよく見えないという点でちょっと不満を持った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2012年12月8日
読了日 : 2012年12月8日
本棚登録日 : 2012年12月8日

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