光の犬

著者 :
  • 新潮社 (2017年10月31日発売)
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本棚登録 : 376
感想 : 47
5

読み始めるといつも脳裏に映像が浮かんだ。
キャストは不明だが、画面の中で静かに登場人物が動き始める。
ときに言葉でなければ表現できない「風景」にも出会うのは、文学の醍醐味。
まるで一人の一生を書いた長い文章がハサミで切られたように分断され、他の人物のそれと無作為ににつなげたように思える構成。しばらく読まないと誰のことかわからないこともあった。
章の中に描かれた人物と、次の章の人物との関係を意図的に断っているとしか思えないくらい、時間も、時代も、場所も途切れたまま語られる。しかし、家族であっても、時間や距離をおいて暮らせばそのように過ぎているのだろうと思うと、この構成を巧みと感じる。
歩は北海道犬を愛し、異性からも好かれ、自分の師と思える人ととも出会え、望んだ職業にもつく。しかし、自分は結婚しないし、両親の面倒も見られないだろうという。

それぞれが死に至るリアルさが、胸にこんなにも迫ってくる。登場人物たちはそれぞれが消失点に向かって「一生」をかたちづくる。最後の消失点を背負っているのは自分だ、と始自身思うのだが、それとて最後が自分とは限らないと思い直す。
もう一度読み返したい。難解な意図がもう少しほどけるかもしれない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 松家仁人
感想投稿日 : 2018年3月22日
読了日 : 2018年3月20日
本棚登録日 : 2018年3月22日

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