2006年の本に増補されて出版されたもの。
幸いなことに、先日、石川直樹氏の講演を聞いたばかりだった。本の内容と重なるところは、彼の肉声が頭の中で響いてくるという贅沢な読書となった。
彼は登山家だけではない。写真家だけでもない。北極から南極までツアーをした。ミクロネシアに星野航海術を学んだかと思えば、気球で太平洋を横断すべく、訓練を重ねたりする。単身、ユーコンをカヌーで下ったこともある。では、冒険家なのだろうか。それも彼自身が否定する。
子供の頃から本読むのが好きで、小説も読んだが、植村直己や星野道夫に惹かれた。高校2年生の時、単身インドからネパールへ旅に出る。そこから彼の自分の体で感じること、学ぶことを喜びとする人生が始まる。
思い立ったらすぐに行動に移せる人を羨むばかりの私には、ただこの本によって追体験させてもらうことしかできないが、平易ながらも、的確で素晴らしい描写の文章で、誰でも「そこ」に行き着くことができる。彼は、自分が体験したこと、そこから生まれた考えしか書いていない。その方法によってしか、読者が行き着くことはできないから。
北方や登山のことしか関心が持てないかもしれない、と思いながら読んでいったが、ミクロネシアの人々も、ネパールのシェルパとの旅も、極地から極地への旅も、ほんのひと時「同行」させてもらったら、それは素晴らしい旅だった。
古代の人々や、今も自分の知恵と体を使って生きる人々に惹かれ、その人々に寄り添い、敬意を表してやまない彼は、冒険家というより求道者のようだった。
たくさん本を読むことも「冒険」という彼だけに、文章の表現力もシンプルながら素晴らしく、読者をたちまち世界の果てに連れていってくれる。
- 感想投稿日 : 2020年2月29日
- 読了日 : 2020年2月29日
- 本棚登録日 : 2020年2月29日
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