いちどは行きたい恨ミシュラン: 史上最強のグルメガイド

  • 朝日新聞出版 (1993年11月1日発売)
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感想 : 15
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掃除していたら目に留まったので、久々に昔の本のご紹介

面白かったですね、この本。
バブル時代(厳密にはこの本が発行された1993年の暮れには、飛行機が墜落するかのごとく景気が急降下し、バブル終焉を迎えている。だが『週刊朝日』連載時はまだそれに気付いている人は少なかった。だからこれが単行本になった頃には閉店に追いやられた店もいくつかある。そういう意味では神足・西原両氏とも慧眼と言うべきか。

少しでも本や雑誌などで紹介された店にはあっという間に長蛇の列ができあがった。
そこで、客を客とも思わない傲岸不遜な店ができたりする。
金を払う客に文句を言う店主がいたりするのだから、すごいものだ。
『お客様は神様です』とまでは言わないにしても、最低限の礼儀はあってしかるべきだろう。

でも当時はそんな店こそが“一流”みたいな、変な自虐性が受けていたこともあり、そういう店が予約も取れない人気店になったりしていた。
本当に美味しかったのかなんて分からない。でも高かったのは事実。
そこに異を唱えたというか、巷に溢れていたグルメ本を嘲笑うかのように、絶賛されている高級店や人気店を一刀両断したのが、この本を書いた西原&神足さん。
見事にばっさばっさと斬り捨てた。
芥川賞一刀両断の某都知事や「このミステリーがすごい!」の覆面座談会みたいに。

痛快だった。特に西原さんがマンガ内で激怒する文章と表情が。
ここに掲載された店は、バブルも崩壊し、空白の二十年を経て、戦後最大の経済不況に陥っている今の日本社会でどれだけ生き残っているのだろう。
当時、神田近辺で仕事をしていた私も、あんこう鍋『いせ源』や鳥鍋『ぼたん』の予約を取ろうとしたことがある。

ただ、「ああ食べたいな」と身に沁みて思うのが、師走間近の外の風が肌寒く感じられる時期になってからなので、電話をかけると「年内から1月までは予約で全部埋まっています。年明けてから、またかけてみて下さい」などと、見事に“無愛想”で“高飛車”な声で断られ、ムッとした覚えがある。

もちろん、ほんとうに美味しい店もある。
だが、人間というのは怖いもので、褒められるとすぐに天狗になる。
天狗になって戒められればよいのだが、その天狗の鼻をさらに高くさせるように、予約が入ったりするものだから、鼻はますます高くなるばかり。
まったく困った時代だった。

でも最近つらつら思うに、ここまで景気が悪くなると“バブルよ、もう一度”などと叶わぬ夢を抱きたくなったりもする。
何とかしないとね、これからの日本を……。ホントに。

現在は本物の『ミシュラン日本版』が発行され、まずまず売れているようだ。
この『恨ミシュラン』は、バブル時代の“似非グルメ”の本質を捉えた、歴史的に価値ある書と評価すべきなのかもしれない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ☆料理本
感想投稿日 : 2012年5月6日
読了日 : -
本棚登録日 : 2012年5月6日

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