伊坂幸太郎の描き出す不思議な世界をようやく発見。
伊坂幸太郎作品、二作目である。
以前読んだ「夜の国のクーパー」は、鼠が主人公の寓話、ファンタジーであり、リアリズム派である私にとってはかなり苦しく、なんとも評価の難しい作品だった。
ところが、これは面白い。
出だしからして奇妙奇天烈な展開。
冒頭、両親と高校生の娘の家族三人が父親の離婚を契機に別れ別れになる前日、三人が集まる最後の日に父親の携帯に突然送られてきた「友達になりましょう」というメール。
普段ならこんなメールは軽くスルーだろうが、父親が「一人になってしまうから友達が欲しい」と言い出し、そのメールに返信し、送信相手と一緒に四人でドライブする羽目に。
その相手というのが、チンピラの下請けのような、違法な仕事ばかりを請け負っている“小悪党二人組み”の片割れのお兄ちゃんというユニークな設定。
さて、この四人の旅の行き着く先は? と俄然興味が湧く。
五本の短編は、その“子悪党ペア”が起こす様々な事件についての話がメイン。
彼らは誰が見ても悪者には違いないのだが、なぜか憎めない一面を持っている。
特に五十を超えたいい年の親父で兄貴分でもある溝口さんのやんちゃ坊主のような惚けた感が笑いを誘う。
小悪党なのに何故か甘い物に目がない溝口さん。
考え方が短絡的で、行き当たりばったりで生きている溝口さん。
自分に都合が悪いとすぐ他人に責任をなすりつける溝口さん。
何かをやり遂げたいと思い、漫画『ゴルゴ13』を全巻読破する溝口さん。
会話も地の文もお笑いセンスが抜群で、思わず噴き出す場面も度々。
ほーお、伊坂幸太郎というのはこういう小説を書くのか、と唸ってしまった。
この可笑しさにはどこかで出会ったことがある、とずっと考えていたのだが、ようやく思い出した。
中学高校時代に読み耽った小林信彦氏のユーモア小説に近いセンスだ。
「オヨヨ大統領」シリーズとか、あそこまでハチャメチャで荒唐無稽ではないけれど、文章から醸し出されるユーモアセンスは彼の作品に似ている。
こういう作品は個人的に大好きなのだ。
お酒を飲んだあと無性にラーメンを食べたくなるように、私の身体はこういう小説を欲しがっている。
それに、最後の上司とのやり取りの中での大どんでん返し。いやあ面白かった。満点です。
久々に腹の底から笑える、愉快な小説でした。楽しい気分になりたい人にオススメです。
- 感想投稿日 : 2013年1月12日
- 読了日 : 2013年1月11日
- 本棚登録日 : 2012年12月24日
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