群像 2012年 05月号 [雑誌]

  • 講談社 (2012年4月7日発売)
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5

(6/18)ようやくこの「群像」が手に入り、大江健三郎賞受賞作「かわいそうだね?」に対する大江先生の選評を読めたので追記。

選評のタイトルは「たくみさと成熟」

つまりは、17歳という若さで才能を開花させた綿矢りささんのその後の10年間の苦悩と成長に対する評価なのでしょう。
──若年の受賞がかならずしも良い結果のみもたらすものではなかったかも知れない。
とお書きになっているので、「インストール」でデビュー、「蹴りたい背中」で芥川賞受賞した綿矢さんを、大江先生はかなり注目していたのでしょう。温かい眼差しで。
どうか健やかに成長してくれるように、と我が子を見るように。
そして「かわいそうだね?」という作品は綿矢さんの転機となる記念すべき傑作で、彼女は順調に小説家として成熟したと表現しています。
大江先生が綿矢さんの“たくみさ”として挙げているのは、彼女の文節の区切り方。
さらに、短く転換する文節と裏腹に長い文章がたくみに配置されているということのようです。
私も、彼女の文章、文体に魅かれるのは、表現や比喩はもちろん、まさにそこのところです。
やたらと長い文章があるかと思えば、突然、人をぶった斬るような、短い一文で感情を表す。
そのあたりが、他のどの作家にも真似のできない“たくみさ”なのだと思います。
さすが大江先生。
公開対談では、何を言いたいのかさっぱり理解できませんでしたが(おそらくほとんどの人が)、この選評を読んでようやく大江先生の言いたいことが分かりました。
私なんぞが言うのもおこまがしいですが、さすがに書き手、読み手としては超一流です。
残念ながら喋り手としては三流でしたが……(失礼。お年のせいですよね)
だって、この選評にも大江先生自身が書いていますが、
「公開対談が実現すれば、私はまず綿矢さんに、この十年の自己訓練について語ってもらいたい」
とあるのに、実際の対談では、そんなこと何も聞かなかったじゃないですか(笑)
しかも、
「そして、これからの20年、30年の、小説家としての成熟への覚悟を話してもらえれば、とねがっています」とも書いているのに、最初から最後まで自分だけ喋りっぱなしで。
会場に来ていたみなさん、それを訊きたくて期待していたのに、先生の話が長過ぎて。
まあ、この「かわいそうだね?」に出てくる綿矢さんの表現。
大江先生が評価するところの“たくみな言葉”で言えば、
まさに“「しゃーない。」”という気分で、あきらめましたが……。

──以下の文章は、5月15日に講談社ホールに公開対談を聞きに行ったときのレビューです。

5月15日 講談社ホールにて 綿矢りさ×大江健三郎 公開対談記

定刻どおり、午後7時に開始。
6時半開場に間に合うように行ったのだが、それでも前から5列目ほど。
最終的には、雨にもかかわらず満席だったようだ。
即席椅子を並べて500人ほど入れるホール。
なぜか対談の前に講談社社長の挨拶。
恰幅の良いおじさんの登場を想像していたら、すらっとした若い方が登場。
野間一族の御曹司だろうが、若すぎる。調べたら43歳でちょっと驚いた。
社長のわりには場慣れしていない話し方だと思ったら、昨年、前社長の母親が亡くなって後を継いだばかりなんだ。
新社長のお披露目ということかね。
その後、メインのお二人の入場。
真ん中のテーブルを挟んで客席から向かって左に綿矢さん、右側に大江さんが座る。
まず、大江さんが延々と喋る喋る喋る。
しかもマイクの調子が悪い上に、声も聞き取りにくいので、半分以上の人は何を言ってるのか分からなかったのじゃないかね。
講談社ももう少し気を遣ってあげれば良いのに。
それにしても綿矢さん。
遠目で見ても、手入れの行き届いたワンレンのサラサラ髪はシャンプーのコマーシャルに出してもおかしくないし、タイトなベージュのワンピースに黒い太目のベルトでウエストをキュッと引き締め、裾丈も短めなので、綺麗な脚を揃えて座っている姿は、まるでモデルか、美人女子アナのようにお美しい。
一時期より明らかに痩せましたね。
生綿矢さんは、想像以上に綺麗なお方で、私の胸が勝手にふるえた。
で、延々と半分くらいは中身が分からない大江先生の話が続く。
大江さんは客席を見ながら話すのだが、綿矢さんは話している大江さんを見ながら時々頷いたりするくらいなので、その美しい顔立ちは、左側に座った私からは殆ど横顔しか見えない。
座る場所を間違えたな。
それにしても、あんな綺麗なお顔で斬新、強烈かつ下ネタも交えた表現の小説を書くのだからそのギャップは面白い。
40分以上も大江先生の話が続く。
時々笑えるネタもあるのだが、それでもぼんやりと理解できる程度。なので笑いもまばら。
御年77歳だそうである。それにしては、ちょっと老けすぎなような。
話の内容は『大江健三郎賞』は、若者が若者に向けて書かれた本に関して評価する賞だということぐらいしか、正確には理解できず。
あとは『あはれ』と『かなし』と『慈愛』と『かわいそうだね』と『忍耐』という言葉の意味について掘り下げた話。
それから「中野重治」(大好きらしいです)「平野啓一郎」「三島由紀夫」「亀井勝一郎」とかの名前も出てきた。
大江先生の言葉で印象に残ったのは『言葉を磨く』という表現かな。

本来は、綿矢さんから大江さんにいくつか質問を用意してあって、それを事前に聞かされていた大江さんが答えるという形式だったようだが、大江先生の話が長すぎて、その後の進行がメチャメチャ(笑)
まあ、それなりに面白かったですが。
綿矢さんが自分の作品について語る時間は殆どなし。
公開対談というよりも、大江健三郎先生の記者会見で、インタビュアーが作家の綿矢りささんといった感じ。
失礼を承知で言わせてもらえれば、銀座のクラブで、酔っ払った高齢のノーベル賞作家が、若くしてそのクラブのナンバーワンになったホステスにひたすら自分の文学論を語り続けているような、そんな雰囲気でした。
大江先生、ごめんなさい。お許しを。

綿矢さんが矢面に出たのは、最後の質疑応答で、質問者が「綿矢さんの小説に出てくる女の人は性格が悪すぎる。もう少し慈愛の精神を持った女性でも良いのではないか?」と言われ、「気をつけます」と笑いながら答えたところぐらいか。
2時間はそれほど長く感じなかったが、もう少し綿矢さんの話も聞きたかったのが皆さん本音だろう。
質疑応答では、私に順番が回ってこなかった。
最後にまた大江先生が20分近くも話すものだから、時間が来て終わり。
なんとも心残りである。
彼女と見つめあいながら話せる機会なんて、今後あるかどうか分からんものね。
なんと質問者にメンチを切って、違った、質問者をあの綺麗な瞳で正面から見据えて答えるんですよ、綿矢さんは。
残念なことをした。
え? 私がどんな質問をしようとしたかって?
そりゃあ、
「大江健三郎賞の受賞作は外国語に翻訳され出版されるようですが、綿矢さんは高橋源一郎さんがいうように『時代と日本語に選ばれた天才』であって、その表現や巧みな比喩は日本語でこそ素晴らしさは通じますが、外国語に翻訳した場合、その素晴らしさを表現するのは難しいのじゃないでしょうか? ですので、私の個人的な妄想としては、いっそのこと村上春樹さんに翻訳してもらって、日本を代表する二人の作家がタッグを組み、日本文学ここにあり!!という心意気を見せ、世界で1000万部以上の発行を目指して出版不況を好転させ、ひいては、震災後の日本の経済不況活性化をも目論むのはどうでしょう?? 村上龍さんからは、そんなことで構造的な日本の出版不況が治ることなど有り得ないと馬鹿にされるかもしれませんが……」
と言って、場内の笑いを誘う予定だったのだ……。無念。
逆に顰蹙を買ったかもしれませんが(笑)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 綿矢 りさ
感想投稿日 : 2012年6月18日
読了日 : 2012年6月18日
本棚登録日 : 2012年6月18日

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