一瞬にして遅すぎた
この小説で深い眠りから目覚めた人物は、交通事故で意識の針が飛び、気づいた時にはもう四年半もの歳月が流れていた……という男性。
周囲にとっての四年半はあまりに長く、傷つき、疲れ、気がヘンになってしまった人もいたのだけど、当人にとってはほんの一瞬★ 寝ている間に、職も恋も失われ、両親はすっかり年老いていたのでした。
その上、意識を取り戻してみたら**能力なんて備わっていて(これを言い出すとネタバレすぎるので、一応伏せましょうか★)、未来までつらぬき通す彼の視線は、周りから見れば得体の知れないモノだったのです――
スティーヴン・キングの初期代表作☆ これを読むころには、著者の印象はおおよそ固まりつつありました。文庫化すると上下巻にまたがる長編を、息切れも見せずエネルギッシュに書き切って、なお余力すら感じさせる作家です。
その初期物のなかでも、『デッド・ゾーン』はとりわけ「文章の体力」を試している作品だったような気がします。
便宜上ホラーとカテゴライズされていますが、いわゆる怖い話ではないですね。描かれているのは、ついに己を使い果たして、再び眠りに帰っていく者の疲労感です。お疲れさま感が強い★
飛び去っていた月日。彼女とともに過ごしていれば得られるはずだった愛は遠く、死の淵から持ち帰った能力は自身に何ももたらさず、煙たがられさえした。けれども彼はその力で、自らを孤独に追いこんだ世間というものを救おうとしたのです。
こんな悲しいことってあるだろうか。失いっぱなしだったんだよ。
誰か教えてほしい。名作に至る正義はなぜ、いつもどこか悲しいのでしょうか……?
失礼な言いかたでないことを願いますが、スティーヴン・キングの書きぶりはじつに巧み。主人公が逃れられない運命のルーレットに巻きこまれていく様を、スローモーションで覗きこんでいるかのような眩暈をおぼえました★
- 感想投稿日 : 2018年10月24日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2006年7月7日
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