<汽笛よ、幻想の国々を貫き響け>
『オリエント急行の時代』! この書名を見たとき、伝統あるオリエント急行の車内や、豪華客車の旅を満喫する紳士淑女の雰囲気を伝えてくれる本なのだろうな~と想像していました。古き良き時代の鉄道紀行を読むような心つもりで手にとったのです。
それはこちらの勘違いというものでした。焦点が当たっているのは、「急行」よりも「時代」★
本書は、オリエント急行が走り始めたころから、没落を余儀なくされるまでの間の世界情勢を追いかけた、政治・社会史本的色彩が強いです★
この急行列車は、フランス、ドイツ、ルーマニアなど、ヨーロッパの国々をいくつもまたがって走ってきました。すると、列車の進むところはどこも、その土地ごとの文化で栄え、その土地ごとに事情を抱え、そして各々が混乱していたのでした。
平井正という著者は、そこを何とも事細かに調べ、綴りあげています。世界史に関心のある人には、魅惑の薀蓄にあふれているはず☆
一例を挙げると、ルーマニアと呼ばれた国の実態は、土地を治めているのが大地主たちで、住んでいるのも国民というより農民って感じ★ 地方が国に属するのではなく、国が地方に「お願いだから、一つになろうよ~☆」と声をかけて、しかも何だか嫌がられているような図式が見えてくるのです。
もう一つ挙げると、アルザス・ロレーヌ地方。ドイツ領からその後フランス領に戻ってきたこの辺りにとって、国籍の意味とは何なのか……?
急行を通すために国と交渉したナゲルマケールス氏は、ひどく手間をかけることになりました。国一つに話をつければ終わり、じゃなくて、それぞればらばらの営みがあるのです。国や国家という単位は、接近して見ると幻想でできているのかもしれません……。
一つの国が、一つの文化や一つの思想に染まっていることはほとんどないし、あればかなり不自然な状態だろうなぁ★ ふと、そんなことを思ったのでした。
- 感想投稿日 : 2011年8月31日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2007年6月20日
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