ガストン・ルルーの恐怖夜話 (創元推理文庫)

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感想 : 19

フランスのこわいはなし


 洋風怪談集を開いてみて、「ほんとうにあった怖いはなし」をやり出すのは、何も日本人に限ったことではないような気がしてきました。
『恐怖夜話』は、フレンチミステリの巨匠ガストン・ルルーが最も活躍していた時期に著した、オムニバス形式の恐怖話集です★ 陸にあがった海の男たちが、みなそれぞれに奇談怪談を持ち寄って、テーブルを囲むという趣向。

 船乗りたちはその手の経験にこと欠きません。船長が自分の片腕がなくなった理由と実体験を明かせば、「第四の許婚」だったという男は、非の打ちどころのない美しい娘ノトランプと結婚した者が、必ず謎の死を遂げたことを語り出します……。寄り合いの場はカフェテラス(……という響きがちょっと可愛い★ パブでビール一杯ひっかけながら、とかじゃないんですね)。ギロチンや蝋人形などの、ヨーロピアンテイストあふれる小道具も満載です!

 どこか芝居がかった文章に、当時売れっ子作家だったルルーのサービス精神と稚気を垣間見る思いです。代表作『黄色い部屋の謎』ではもっと大仰で芝居がかった書き方だったことや、『オペラ座の怪人』は芝居がかっているだけではなく、実際お芝居に関わる話だったことなども思い出されます。
 殺到する原稿依頼に骨身を削って応じ続け、自分が書いたものの向こうにはそれを受け取ってくれる人がいると確信していた、人気作家の姿を想いました。作品の趣向はかわっても、人を驚かせることで楽しませるという路線に変更はなかったのですね☆

 1920年代に出たこの短編集は、怖くてもどこかに隙が残っています。怖いは怖いんだけど、現代の、行くところまで行き着いた過激な怪奇物になれてしまった人は、ゆるいと感じるかもしれない。でも、「怖い」ことがただ直截的に表現されるよりも、「怖い」の周りにふわっと空気を含んだような、こういうレトロな怪談集のほうが、私は肌に合うようです★

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: はっぴゃくじ@Review Japan掲載書評
感想投稿日 : 2015年12月7日
読了日 : -
本棚登録日 : 2004年8月5日

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