良識のパワーヒッター!
24世紀、超感覚者(エスパー)が人の心のうちを読み抜くのも当たり前となり、犯罪が困難をきわめる時代のこと。
大企業のボス、ベン・ライクは、最大のライバル社のトップを消し去るため、思い切った完全完璧犯罪計画に走ります。初めからベンがホシだとにらんだパウエル刑事部長でしたが、確たる証拠が上がらない★ ベンVSパウエル、知の攻防の行方は――?
とんでもなくパワフルな筆致だったな~。適時安打よりホームランを飛ばす怪獣の仕事ですね(野球にたとえるのがどうなのか分かりませんが……)。
完全犯罪を目論みながらも、今度は自分の良心に引き裂かれるという、ドストエフスキーの『罪と罰』に通じそうな部分を含みながらも、明るくてかなりドタバタした調子なので、楽しい読書でした。乱痴気パーティの馬鹿馬鹿しさが結構好きですね★
さて、この小説では、殺人者に科せられる刑罰が「分解」なんですよね。すごいアイディアが来ましたよ!
今現在、日本国は「死刑」という制度のある国です。なかなかデリケートな問題で、素人が安易に賛成や反対を唱えられるものではないと思うのですが、ただ言えるのは「人殺しへの仕返し」としての極刑には賛同しかねるということ★
どうやら刑に処すことが犯罪抑止力にはつながっていないとも聞いています。死刑で殺人はなくせないんですね……。
この本の、人間の中身を根こそぎ「分解」するという発想は、いかにもSF的ではありますが、しかし凄いな。人の意識をバラバラにしてしまえば罪が残らないという極論の、思いがけないあたたかさに脱帽です★
『虎よ! 虎よ!』(傑作だな☆)と併せて読むと、作者アルフレッド・ベスターは怪獣的に強引な展開の裏で
「復讐は無意味である」
という普遍的な答えを導き出したらしい。書き方が荒々しくて紳士的じゃないのに(そこがいいのですが★)意外と良識のひとだったな。
- 感想投稿日 : 2018年10月26日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2005年2月13日
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