知性の磨きかた (PHP新書)

著者 :
  • PHP研究所 (1996年11月5日発売)
3.35
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本棚登録 : 705
感想 : 82
4

学ぶ事と遊ぶ事の境界をいぢって、人生とはなんたるかを語ってしまう本

目次
<blockquote>第1日 学問の愉しみ
第2日 読書の幸福
第3日 遊びは創造
</blockquote>
これはまぁ、なんという事なんでしょうね。不思議な本です。
著者の経験から出てきた、学問・読書・遊び論……と言った感じなのですが、
それがたんなる経験訓辞でなく、論理をきっちり組んで、肩肘張らない文章で書かれた本なんですよ。
読むと言うより、聞くような感じ。こういう文章を読むのは珍しいので、速読もくそもなくて文章に引きずり込まれちゃいました。でも集中して読めて、あっという間に終わった。章の境界がかろうじて認識できる程度で、ほとんど一直線に読み終わっちゃう。そういう点で、「これ新書?」とすら思った。
フリーダムすぎます。

さて、肝心の内容なのですが、まず学問。
学ぶと言う事、教えると言う事、それについて、こんな言葉を連ねています。
<blockquote>・現象的な意味で「物知り」みたいに見えるのは、すべてその応用にすぎないと思うんです。そういうことを考えると、若い時代の修行というものがいかに大切かということを痛感せずにはいられませんね。

・大切なことはね、学生が勉強している事を聞いて、<u>ほんとうにこの学生がね、正しい方法で進んでいるかどうか、何か独善的な方法に陥ってはいないか</u>、そういうことをチェックし修正することなんです。教師の最大の任務はそれです。

・方法を身につける努力というのは、この雲水修行のことで、<u>非常に迂遠な不能率な道筋</u>です。だからそれは簡単じゃない。やはり汗を流していただかなきゃならない。そういうことができるのは、しかし、逆に若いうちだけなんですね。頭が柔軟なうちでなければ、方法を身につけることはできないんです。

・以前、森先生が何にも指導をしないでね、「この作品の研究はこれでおしまいだね」って私の修士論文を批評してくだすったこと。で、阿部先生が、私は秘密で一人でやっていた研究を読んで、「よく書けている」とおっしゃってくだすったこと。このワン・センテンス。<b>それぞれ「ワン・センテンス」の、この言葉のために、私は十年間と言うものを一生懸命勉強してきたといってもよい</b>。
</blockquote>
かなり抜き出しましたけど、その話し調な文章からキーポイントを抜き出すのは難しいんで、まとめて抜きました。
学ぶ事は、能率がいい事でなく、ものすごく遠回りをして、「方法」を身に着けることだ。
教える側は、コンテンツを教える訳でなく、学ぶ側の「方向」が間違ってないか見ること、そして最後に評価することなのだ。
……といった感じでしょうか。
自分がそういう勉強をしてきたからなのか、ものすごく実感の沸く文章なんですよ。しかしそういう勉強でなく、知識を詰め込むだけの勉強しかしていない人には、ピンと来ないかもしれません。大学で学ぶ事の真意なんですけどね。コレ。

読書論についても、なんというか、論理っぽくない。
まあ、ベースとしては読書は自由なものである。という点から出発しているんですが、
<blockquote>読書と言うものの本質的な大変重要な事を意味しているんです。できるだけ快い、安楽な、自分のやりやすいやり方で読みなさいということからいうと、風呂に浸かりながら読んだり、おいしいものを食べながら読んだりっていうのは、<u>積極的に望ましい読書の形</u>なんですね。</blockquote>
ちょっと、知的な論ではないですよね!
だから、本は買ってボロボロにしてしまえと言っている。うーん、貧乏にはあまりやれない……。
個人的にこういう本を汚すアプローチはどうしても好きになれません。まぁ自分で買った技術書は蛍光ペン引きまくりなんですけどね。これは区別してて、あっちは辞書みたいなもんだって思ってるからやれちゃうけど、読むものだって思ったら難しい。
子供の頃の躾というのもあると思いますし、このあたりはどちらもどちら、正解は無いかもしれません。

そして遊び。正直涙ちょちょぎれそうになったさ。
<blockquote>だから、そういう安住の地をあえて捨てて、いまだ誰も認めてくれていない、新しい芸術に挑戦したいと希求するんです。(中略)それは、しかし、誰に頼まれた事でもないから、当面誰にも認められないかもしれない。<u>認めてもらえない以上は、お金にもならないに決まっている。</u>
しかし、それでもいいんです。このことは、<b>「私」のまったく一個人としての、生命を賭けた仕事なんだから</b>ね。</blockquote>
これほど言われると、ブワッとなる。
認められないということは、同時に存在しないのと同じで、精神的には苦しいんですよ。しかし、それでも敢えてしたいのだという著者の主張が「一個人としての、生命を賭けた仕事だ」という固い意志。
これは人によっては、理解しがたい感情です。というのも、認められないというリスクを取ってまで、自分をそこにおく必要なんてないんです。それなりのことをすれば、それなりの評価がくるんです。でも敢えてリスクを取る。
それがいつかはちゃんと認められる。それを信じて自分をそこに置いて前へ進む。そこはすごくホロリきちゃうとこですよ。
同時に、よっぽど強い気持ちでなければ、それを言えたりはしない。その強さにも惹かれる訳です。

物凄く泥臭い文章な訳で、好みの分かれる本ですが、俺としてはこれは高評価をあげざるをえないなぁ……。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年5月1日
読了日 : 2009年1月30日
本棚登録日 : 2019年5月1日

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