書籍にまとまるぐらいなので、著者の想像力や記憶力が豊か過ぎる。
性癖の何をして「ノーマル」と呼ぶかはそれぞれだろうが、アイドルのポスターの目鼻と口に穴を空け鏡に向かってディープキスしたり、大リーグ養成ギプスでのオナニーを妄想する、好きな女子の上靴を持ち帰って抱きしめる、カメラ三脚の説明書でヌク…なかなか興味深いこだわりがそこかしこに網羅されている。
とはいえ、単に扇情的な内容の羅列ではなく、文章表現や構成、オノマトペ、執筆についても冷静に説明されている。著者は自分の欲望のツボにとても正直で、真面目な気質のようだ。様式化されたフォーマットを追求する、職業作家としてのストイックな面も見える。これは、豪奢で妖艶にしたくなりがちな装丁をシンプルに仕上げたところにも繋がっているのではないか。
そして、ネット上で公開されているような、分かりやすい形で生々しくインスタントなイメージよりも、むしろ無いこと・欠落していること・想像力で補わざるを得ないテキストにこそ、人は興奮するのだと筆者は説く。制約の中で、リアルとファンタジーのバランスや落差、羞恥心を自由にコントロールする。
私は官能小説というものを読んだ経験が無いが、人間の欲望や興味が一体何に最も反応するのか?という根源的な問いに対するヒントは、エロ目的の文章に限らず、すべての表現者にとって、粘膜レベルで参考になるはずだ。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
書くこと
- 感想投稿日 : 2013年6月16日
- 読了日 : 2013年6月16日
- 本棚登録日 : 2013年5月9日
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