日本橋バビロン

著者 :
  • 文藝春秋 (2007年9月17日発売)
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感想 : 13
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バビロンとは、メソポタミア地方の古代都市で、語源はBab-ilim(神の門)に由来する。
街はユーフラテス川から引いた堀に囲まれ、貿易で栄えた商人の町だった。

隅田川に隣接する現・東日本橋は、かつて西両国と呼ばれ、明治終わり頃まで屈指の歓楽街として栄えた、やはり商人の町だった。
鍵屋、玉屋は両国の花火屋である。

明治~大正に生きた筆者の祖父と、大正~昭和に生きた父の思い出を綴りながら、
かつて栄えた下町 両国を、実生活の目線で描いている。
ブームに乗った下町礼賛でなく、お茶の間目線で描かれている点が特徴で、
リアルな下町の生活を垣間見れるのが貴重であり面白い。

江戸時代から九代続く老舗和菓子屋の長男として生まれた筆者。
祖父はやり手の商人で、父は商人に向かないモダンな人だった。

婿養子だった祖父は周りに恐れられながらも強引にぐいぐい家業を大きくしたが、
今際の床で「(生まれ故郷)に帰りたいよう」とうなされたというエピソードに、
人の強さと裏腹の弱さを見たようで切なくなった。
父の代で暖簾を畳むことになったが、筆者の文化的素地は父に育まれた。

今は廃墟のバビロンとかけて、下町の栄枯盛衰を感じさせるタイトルだが、
抗いがたい時代の変遷と、人の心変わりという、一言では表せない事情が丁寧に描かれた、筆者版「平家物語」の読後感であった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2013年11月15日
読了日 : 2013年11月15日
本棚登録日 : 2013年11月15日

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