「死って何だろうね」
蛹が言った。
葉月はコーヒーを沸かしながら、内心ため息をついた。
「何でもいいですけど、とりあえずコーヒーでも飲みます?」
「うん、飲む」
二つのカップを手に居間に戻ってみると、蛹は縁側から海を眺めていた。
「コーヒー淹れましたけどー」
テーブルに蛹のカップをわざと音を立てて置き、葉月はソファに深々と腰を下ろした。
蛹は気づいていないかのように、振り返ることすらしない。
葉月はコーヒーを一口啜って、またため息をついた。
蛹という男は、一週間のうち六日は死について考えているのだ。残りの一日はというと、「ためしにちょっと死んでみようか」なんて考えているのだから油断できない。
「死っていうのは、世界のどこら辺に位置するものなんでしょうね」
独り言ですけど、と前置きをして、葉月は言った。
「よく、生命は死を内包しているというけれど」
蛹が、水平線に目をやったまま、言う。
「人を解剖したところで、死は見つからないね」
「解剖したんですか……」
問うて、葉月はすぐに後悔した。
人間はどうか知らないが、職業柄、動物ならいくらでも解剖しているはずだ。
それはどういう体験なのだろうかと思う。
「でもまあ、死に通じる何かしらのものを得ることはできるかもしれないね」
「死に通じるものって、つまり生きているってことですよね?」
「さあね」
ようやく蛹は肩越しに振り返り、こちらを見た。
「でも結局のところ、何かを知るためには、表面から少しずつ、皮を剥がし、腑分けをしていくしかないんだね」
「そうですね」
葉月はソファから立ち上がり、蛹のカップを手にした。
「ほら、コーヒー、冷めますよ」
「ああ、うん、そうだね……ありがとう」
- 感想投稿日 : 2013年12月19日
- 読了日 : 2013年12月19日
- 本棚登録日 : 2013年12月17日
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