原民喜 死と愛と孤独の肖像 (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店 (2018年7月21日発売)
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本棚登録 : 349
感想 : 31
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この新書は、今年の夏に本屋の棚に登場して以降、ずっとひとり立っていた。何故この本だけ全面写真カバーが付いているのか。カバーに云う「愛しすぎて、孤独になった。今よみがえる悲しみの詩人…。」原爆作家の原の字もない。夏の終わりに、ラジオ番組で本屋の書店員がオススメの本を紹介するコーナーがあって、熱を帯びて勧めていた。若い女性と岩波新書というのがチグハグで、やはり記憶に残った。早いうちに読もうと思った。それから一ヶ月あと。いっきに読む。いつもは数冊の本を並行に読むのだけど、他のを紐解く適わなかった。この本は小説ではないけど、知識の本ではない。読んで、体験すべき類いの本である。原民喜というピュアな人に出会ってしまうという体験。

虐められて、世の中から逃げるために自殺をするのではない。あまりにも純粋な世界しか見ることが出来ない稀な能力を持ってしまったために現世よりも死の世界の方に居場所を見つけた青年。けれども最愛の妻が「書いて欲しい」と言ってくれたから、自分しか書けない最悪の地獄を見てしまったから、愛する現世の人たちのために書き遺して置かねばならない、と決意して仕舞った青年。死の世界に行く前に(おそらく)10ー20年生き延びてしまった青年。そんなピュアな人は現実にいるのだ、と信じさせてくれる評伝だった。

梯久美子さんの本は、そうとは知らずに一冊だけは読んでいた。戦争で九死に一生を得た人たちに取材したインタビュー集である。氏の著作一覧を見ると、「死と愛と孤独」の人についてずっと書いているのがわかる。思うに、何かの賞を取らざるを得ない評伝だったろう。

2018年10月読了

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: は行 ノンフィクション
感想投稿日 : 2018年10月27日
読了日 : 2018年10月27日
本棚登録日 : 2018年10月27日

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