「カルト」はすぐ隣に: オウムに引き寄せられた若者たち (岩波ジュニア新書 896)

著者 :
  • 岩波書店 (2019年6月21日発売)
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かつてオウムに殺されかけたこともある著者を迎えて、若者に「いかにカルトにのめり込まないようになれるか」を説いた書物。「のめり込むなんて、そんなことあるはず無いじゃないか」と若者は思うかもしれない。しかし、事実としてオウム事件で死刑になった当時の青年たちの多くはみんな、「あるはずない」と思うような青年だった。

死刑になった12人は、高卒もいれば、教授に将来を嘱望された科学者もいれば、医者も2人いる。みんな「真面目な」若者だった。

特に中学生、高校生にも読んで欲しいけど、実はオウム事件を経験してきた大人に、改めて「あの事件はなんだったのか」知ってもらいたい。殺人こそ犯さないけど、現代もマインドコントロールされる人たちが後を絶たない。そういう意味では、誰にとっても、危険はすぐ隣にあるだろう。

初めて知ったことが多い。
私はマスコミによって、逮捕劇とか空中浮揚とか絵になる事柄だけに詳しくなって、その概要を全然知らされていなかったのではないか?と思う。
松本智津夫(麻原彰晃)の人生も、死刑囚の人生も、次第とエスカレートしてゆく初期の数多くの(殺人を含む)犯罪も詳しくは知らなかった。
警察が初期捜査の段階で、如何に数多く犯罪を見逃してきたのか(ここに記述あるだけでも5件)。
オウムが登場してきた頃、マスコミが如何に麻原彰晃を面白おかしく宣伝していたのか(「ビートたけしのTVタックル」「とんねるずの生でダラダラいかせて!!」「朝まで生テレビ!」)。
指摘されて初めてあったかもしれないと思い出した。

オウムを産み出した社会背景もいろいろと思い出した。オウム事件は95年だが、彼らが過ごした少年時代はどんな時代だったのか?73年のオイルショック、狂乱物価、「ノストラダムスの大予言」と「日本沈没」そして超能力。それらの爆発的ヒットの年だった。その頃小学生だった彼らは、やがてバブル期に青年になる。彼らが入信する80年代後半は「24時間戦えますか」「いじめ自殺」「過労自殺」が出現する。そして1999年の「終末」が近づいてくる。

はっと気がついたのは、オウム真理教の柱の教義に「ハルマゲドンが起こる。それまでに最終解脱する人を3万人作らないと間に合わない」というのがあった。「人類救済計画」と呼ばれていた。これって、エヴァンゲリオンの「人類補完計画」と大差ないではないか。96年がエヴァンゲリオンのテレビ初登場。エヴァの背景にオウムがあるのは聞いていたけど、庵野秀明はまるまる25年をかけて「オウムの呪い(のろい)」から解放される「呪い(まじない)」を探していたということになるのか。

一応カルトの条件と、カルトから逃れる方法も書かれている。しかし、カルトには「タイミングさえ合えば、誰もがのめり込む」とも書いている。

もう、そういうことが起きないような社会にするしかないのかもしれない。けれども、戦争という人類史上最高度のカルトを無くさない限り、それは無理なのかもしれない。

2021年4月19日読了

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: か行 ノンフィクション
感想投稿日 : 2021年4月20日
読了日 : 2021年4月20日
本棚登録日 : 2021年4月20日

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コメント 3件

猫丸(nyancomaru)さんのコメント
2021/04/20

kuma0504さん
真面目な人程、一途にのめり込んでしまうのかなぁ?

侮れないQアノンとオウム真理教の不気味な類似性|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
https://www.google.co.jp/amp/s/www.newsweekjapan.jp/amp/stories/world/2021/02/q-4.php

kuma0504さんのコメント
2021/04/20

猫丸さん、
そうなのかもしれませんね。
私なんか、
運が良かった、だけなのかもしれません。

猫丸(nyancomaru)さんのコメント
2021/04/21

kuma0504さん
その運に感謝します(笑ってはいけません)

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