天地明察(下) (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA (2012年5月18日発売)
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今年の初日の出を皆さん拝んだでしょうか?太平洋地域はなんとか拝むことができたようです。ところで、どうして拝むのでしょうか?

別にイスラムのように、毎日数度神さんに向かってお祈りする人はいないのですが、時々日本人の頭ん中に具体的に太陽神が浮かぶようです。日本人でここまでみんなして具体的な神様を拝むのは、太陽神(天照大神)ぐらいなものかもしれません。暦が初日の出時刻を教えてくれるとすれば、やはり「権威」を持ちますよね。

ところで、北海道から沖縄まで、日の出時刻は30分近い誤差があります。尚且つ、(本書で初めて気がついたのであるが)「秋分から春分までおよそ179日弱なのに、春分から秋分までは、およそ186日余である」のだそう。これは単に緯度経度だけからはわからない。地球が太陽の周りを円で回っていると考えると、決してそうはならない。

渋川春海は「算術」を駆使して導き出す。「地球は楕円に回っている」。おお凄い!もはや理系オンチの私には未知の世界です(この辺り映画では省略されました)。

下巻は理系でつかんだ暦の「理(ことわり)」を、権謀術数に優れる京都公方の人たちに如何に認めさせたか「社会への術」が、クライマックスになります。そこで、一回は敗れた「囲碁侍」の春海の面目躍如たる活躍があります。

(上手いな)
春海はそれこそ率直に感心した。相手の布石を切ることは碁の基本である。(第六章「天地明察」より)

路上での公開討論、世論形成、土御門家への朱印状、関白の確約、販売網の掌握。一旦負けたと見せかけての怒涛の布石返し。まるで藤井五冠が渡辺棋王へ奇跡的な「王手返し」したようなものである(と、正月番組を見ながら思いました)。

この辺りは、映画では省略された。映像的に難しいから。小説家冲方丁の勝利である。そうやって、渋川春海の日本独特の暦つくりは完成する。

新分野を描くという試みは、やはり成功すれば強いですね。今迄誰も描かなかった算術と天文分野の出来事を、生き生きと明るく描いたということで、納得の本屋大賞でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: た行 フィクション
感想投稿日 : 2023年1月3日
読了日 : 2023年1月3日
本棚登録日 : 2023年1月3日

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