おどろきの中国 (講談社現代新書)

  • 講談社 (2013年2月15日発売)
3.78
  • (62)
  • (108)
  • (79)
  • (18)
  • (2)
本棚登録 : 1023
感想 : 111
4

経済面でみても、日本と中国は米国よりも強い関係がある。しかし、なまじ片言(漢字)が分かるだけに、隣国の性格までわかろうとしていなかったのではないか。そう思って読もうとした。図書館の順番を待つこと一年、やっと読むことが出来た。この本が人気を獲ったのは肯ける。古代から現代にかけて、中国がなぜ五代文明の中で唯一現代まで続いているのか、そもそも何を考えているのか、現代中国はそもそもどういう国で、何を望んでいるのか、そういう「そもそも論」をわかりやすく、古代から現代まで語った本はあまり見当たらなかったためだろう。隣国は外国だ。性格が違うのは当たり前だろう。

対談という仕組みがそれを可能にした。専門の違う社会学者の2人が1人の専門家と議論する形で、本来もっと精査されなければならない課題を100も200もエイヤッと切った。お陰で、全体像がくっきりと浮かんだのだろう。

しかし、それは諸刃の剣である。この本を読んで、いかにも分かった気になるのは極めて危険である。ここで断定的に述べられていることは、全て問題設定だと見た方がいい。また、橋爪大三郎はさすが専門家だけあって大きく的外れなことは言っていないが、大澤某の見識の低さには、終始いらいらした。

問題設定なので、刺激的な部分は多々あるが、自分の問題意識に照らしてメモしておくのが1番有効な読み方だろう。私の興味はあくまでも「日本とは何か」である。合わせ鏡としての中国を語った部分をメモする。

●トップリーダーは有能でなければならない。しかし、秩序(安全保障)が優先されるから、世襲も認める。それを補助するために、ブレーンが有能であるために儒教を採用した。
●科挙でどうのように能力を測るか。古ければ古いほど、基準が変わらない。多民族国家では、漢字が共通言語になる。日本は同質性が高いので、この苦労はない。結局能力試験は発達しなかった。
●皇室の血統はカリスマ性の証明。よって宦官が出現。日本は天皇の血縁カリスマなんて誰も信じていない(源氏物語)。さらには、律令制の官職が世襲になった(藤原氏)。
●日本はその時代に最も実力があるもの(貴族、武士、役人)が権力を握った。しかし、中国ではなぜか行政官僚が常に権力を持っていた。つまり中国は大きすぎるので、政権交代時の戦争はあるが、終わると直ぐに非軍事的な方法で序列化される。
●政権の持続性や継承性の根拠として「天」という神でもないものを持って来たために、かえって政権を断絶させたり、変換させたりすることがときに必要になった。一方、日本には天皇が天皇であるための根拠というものが何もない。根拠がないから、逆に絶対つぶれることもなく、実権があったかどうかは別として、万世一系でいられた。その代わり日本人は「リーダーは有能でなくてよい」。いやむしろ、「リーダーは有能でない方がいい」と思っている。「リーダーは有能でない」のに、この社会は維持出来るのか。大丈夫。日本人は「自分が頑張るからいい」と思っている。でも、安全保障はそんなに甘いものじゃない。自分が努力したってダメなものはダメなんだけど、日本人の場合、なぜかそう思っている。平時と戦時、どちらに焦点をあわせるか、だ。これは農民の論理、ムラの論理だ。ムラはセキュリティに責任を持たないから、セキュリティに責任を持つ武士を必要とした。武士は自力救済で、刀を差していて、ムラを守り、いざとなれば相手を殺し、いざとなれば自分が死ぬ。中国人はこんなことをしない。政治で解決しようとする。戦前、武士は軍隊になり、戦後アメリカになった。これは、伝統日本としては異様な在り方だ。(宮台)でも、主観的にはアメリカを
日本的なものの枠内に「武士」として包摂しているので、客観的に異様な在り方であることに気がつかない。(大澤)アメリカが有能ならばいい。
●なぜ中国はすぐに近代化できなかったのか。根本教典のようなテキストがあったから。翻って日本には規範となるテキストがない。そこで運命を分けた。
●天皇は神々の子孫であり、日本人も神々の子孫。よって日本人は天皇をシンボルにすれば、自分たちを日本民族だと意識出来る。このロジックを江戸時代の儒学や国学は苦労の末に編み出した。しかし、中国の皇帝は、天と血縁関係がない。そもそも天には神話がない。ゆえに人民と運命的なつながりを持たない。これでは民族主義になり様がない。民衆の間の連帯も弱い。人びとは儒教道徳に従って、自分を大きな血族集団の一員と考えており、そこに属する人びとの福祉を最大の目的に生きている。その集団の外の人びとには、よそ者だとして、冷淡な態度をとる。広範な範囲の民衆がまとまろうとしても、砂を炭団にするようで、まとまらない。
●台湾問題は、台湾の統合を中国&アメリカで合意したときに、日本が蚊帳の外になる可能性がある。この本を出版して一年間でそれはさらに大きくなった。
2014年3月11日読了

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: あ行 ノンフィクション
感想投稿日 : 2014年3月24日
読了日 : 2014年3月24日
本棚登録日 : 2014年3月24日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする