だから、居場所が欲しかった。 バンコク、コールセンターで働く日本人 (集英社文庫)

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  • 集英社 (2019年9月20日発売)
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タイのコールセンターは、小さな日本である。日本語しか出来ない日本人が、安い給料で、しかし日本よりはまだ住みやすいという理由で働いている。ロスジェネ世代(就職超氷河期に青年期を迎えた世代)の著者が、主にロスジェネ世代の人たちのそこに住む理由を聞いて行く。

「そんな社会から落ちこぼれてしまった、もう若くない日本人たちがコールセンターに集まっている。あたかも最後のセイフティーネットであるかのように、バンコクに張り巡らされた網にかろうじて留まっている。そして取材した大半のオペレーターたちが「もう日本に帰る気はない」と口にする。異国の地でそんなことを真顔で言われると、彼らに共感しつつも、生まれた国が愛想をつかされているように思う自分がいた」(エピローグより)

初めて著者の本を読んだが、タイ国のように何処か暑苦しくジメジメとした文章で好きなれない。取材が長引いた経過や、取材費として金を払うかどうかという過程も頻繁に出てくる。ムダな文章が多いのではないか?と感じた。かつて本多勝一は「どういう事実を書くのか」が問題だと論じた。ベトナム戦争の最中に、人が銃弾で倒れる事実も、ジャングルの自然を描くのも、正確な事実としては等価なのだ。だから事実でもって真実を描こうとするならば、事実を選ぶ著者の思想そのものが問われるのである。コールセンターはいい素材だと思う。難しい取材だったとも思う。しかし、著者は未だ東南アジアの森の中で彷徨っている。そんな気がした。

「私が取材の過程で特に意識したキーワードがある。「居場所」だ。私の定義する居場所とは、自分の存在意義を実感することができ、承認欲求を満たせる空間のことである」(エピローグより)

著者本人が承認欲求を持って未だに迷っているから、このロスジェネ世代達の過去も未来も描き出せない。このごちゃごちゃしてジメジメした「現在」を描けば、何かが見つかるのではないか、誰かが見つけてくれるのではないかと勘違いしているのではないか?

著者は「彼らに寄り添って取材するべきだ」という。そのことには同意する。しかし、文章までも寄り添うべきでは無いと、私は思う。

かなり厳しい事を書いている。あんたはロスジェネ世代より前のバブル期に就職した世代だから気楽な事を言えるんだ、と非難されそうだ。まぁその通りだ。しかも、著者は私のなれなかったジャーナリストに曲がりなりにもう成っている。頑張ってほしい。純粋にそう思って、つい書いてしまった。



読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: た行 ノンフィクション
感想投稿日 : 2019年12月2日
読了日 : 2019年12月2日
本棚登録日 : 2019年12月2日

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