謎解きはディナーのあとで

著者 :
  • 小学館 (2010年9月2日発売)
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国立の昔をいまに伝える名所といえば谷保(やぼ)天満宮。関東では最も古いといわれる天神様である。俗に野暮な人を馬鹿にして「野暮天」などと呼んだりするが、その言葉はまさしくこの谷保天満宮=谷保天に由来するともいわれている。だが果たしてこの俗説は本当だろうか。「Yahoo!」で検索してみれば詳しいことはわかるかもしれないが、宝条麗子はいまそれどころではなかった。(87p)

この一節を読んでYahoo検索をした人は、おそらく万を下らないだろうと思われる。私は悔しいのでしていない。作者の人を小馬鹿にしたような「策略」に嵌ってしまうからである。

言わずとしれた、2011年本屋大賞受賞の大ヒット作品である。私は受賞後に「試しに読んでやろう」という軽い気持ちから図書館に予約した。それが忘れもしない2011年8月26日だった。え?それなのになぜ今ごろ読んでいるのか、ですって?その時点で予約者は300人を超えていた。私の利用している岡山県立図書館は自慢するわけではないが、来館者数、個人貸出冊数が9年連続で全国トップをとっている。個人貸し出し数・142万冊は、2位(大阪府立図書館)の50万冊を大きく上回る数である。岡山県民の108万人弱が、年間146万冊も借りている。県民一人あたり1.3冊借りてる計算だ。しかし、一つ難点があって図書館が購入する本の冊数は一冊と決まっているのである。よって人気作は下手をすると、このようにまるまる3年以上の長きに渡って待たされるという憂き目に逢う。まあ、私のような読書家になれば、常時30冊を同時並行読書をしているので、待たされてイライラするようなこととは無縁ではあったのであるが。

と、いうような文章を読んで皆さんは頭の隅でおそらくイライラ虫が動き回ったのではないかと思う。作者の東川篤哉はそういうイライラ虫をうまい事エスプリに換えて、この内容的にはありきたりな謎解き小説を味付けしていた。因みに谷保天満宮のエピソードは宝条麗子が上司でエリート意識丸出しの風祭警部を「この野暮天がぁ!」と一喝してやりたい衝動を抑え込むというくだりの伏線であって、本筋の謎解きとは全く関係ない。念のため。

至る所に、表層的に見えている現象を逆転して見せる仕掛けが満載で、お嬢様で刑事の宝条麗子の執事が謎解きをしながらも、執事は宝条麗子を小馬鹿にするという「構成」が、謎解きそのものの構成をもトレースしているという、すんなり読めるのだけど、かなり凝った構成の推理小説でした。
2014年10月10日読了

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: な行 フィクション 
感想投稿日 : 2014年10月17日
読了日 : 2014年10月17日
本棚登録日 : 2014年10月17日

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