冷血(上) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2018年10月27日発売)
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本棚登録 : 580
感想 : 48
4

第一章を読み終えるのに、毎日義務の様に読んで実に一週間かかった。読んでも、読んでも、ページを捲るのが身毒なって已めて終う。歯科医師一家四人殺害事件。犯人は2人の男。それだけは、嫌でも事前に情報が入る。

高村薫なのだ。始まりは、事件一週間前の被害者の娘の一人称の述懐。そして、2人の犯人の夫々の述懐と続く。ここまで読んだならば、何が待っているかは容易に想像がつく。一般のミステリーではない。高村薫なのだ。一人称述懐タイプの描写は詳細を極める。被害者の娘、中学一年生の歩(あゆむ)は徒らに純粋で生意気で聡明だ。実際、数学オリンピックをを目指す子供はそうなのかもしれない。犯人たちは、あまりにも短絡的に犯行を繰り返す。次第と運命の日に近づいてゆく。最近のゲーム世代の小説家のように、大量猟奇殺人鬼をキャラとして描いたりはしないのだ。

高村薫の粘菌のような描写が続く。読んでいられない。もう止めろ、と私の中の臆病が叫ぶ。もう辛抱が切れかけていた頃、突如スイッチが切り替わるように第二章「警察」に変わった。

久しぶりの合田雄一郎。私は単行本の「太陽を曳く馬」も読んでいない。「新リア王」から「太陽を曳く馬」に続き合田雄一郎も登場するこれらの文庫本化を飛び越えて、高村薫は何故こちらの文庫本化を急いだのか?本書を読んだところで、雄一郎の捜査のように「答」がひとつ出てくる見通しは何一つ無いが、また何故この物語が2002年に設定されているのかも、何一つ見通しは立たないけれども、ひとつ事実としてあるのは、第一章にきっちり7日掛かった私は、第二章はきっちり1日で済ませたということだ。もちろん、雄一郎の因縁の元妻が2001年の9.11で亡くなっていたことなどを見逃す粗い読書はしなかった。義兄との関係は、進んでいるのか?いないのか?それはわからなかった。

事件は、想定内の経過を経て犯人逮捕に向かう。これでやっと物語の半分。一切見通しは立たない。合田雄一郎シリーズ、いったい何処に向かうのか。

2018年11月12日読了

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ら行 フィクション
感想投稿日 : 2018年11月16日
読了日 : 2018年11月16日
本棚登録日 : 2018年11月16日

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コメント 1件

傍らに珈琲を。さんのコメント
2023/12/03

kumaさん、こちらにもおはようございます!

粘菌のような描写←ほんとそれ!
網目のように何処までも伸びて絡み付いて…
流石の描写です。

見通し立たないですよね、私も、どこに向かうんだろ…って思いながら下巻を読んでます。
が、キツいです。
今のところ井上があまりにもイノウエで、やりきれないなぁ。
戸田もだけど。

高村薫さんに飲み込まれてます。。。

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