星を掬う (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社 (2021年10月18日発売)
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自己肯定感を持たない千鶴は、元夫のDVに追い詰められて「(元夫を)殺すか、殺されるか、どちらにせよ人生を終わらそう」と決めて職場を辞めることにする。主任は、親戚を頼るという嘘の報告を聞いて良かったと言い、「何もできなくて、ごめんなさい」と謝る。その謝罪に千鶴は反応する。去り際に「謝るのって、許すことを強要してるんですよ」というのである。カチンときた。

主人公は千鶴である。確かに元夫のDVはあまりにも酷い。でもこの主人公の最後の一言も酷い。昔なんか似たようなことを言われた事をふと思い出した。そう言われたら、黙るしかない。でも千鶴さん、何処か間違っているよ。

昨年11月、好意的な書評をたくさん読んで、もしかして傑作かも、と思って図書館予約をしてから5ヶ月。やっと紐解いた。その間、本屋大賞にノミネートされ、2年連続の大賞は流石に厳しかったようで10位に終わっていた。町田そのこは初読み。私はこれでは連続本屋大賞は獲れないとは思った。

主人公に共感できなかったからではない。
主人公に対する根本的な批判は、物語の中盤で早々となされた。曰く。
「言ったことは、弱者の暴力だ。傷ついていたら誰に何を言ってもいいわけじゃない」
それをキッカケに千鶴は次第と変わってゆく。
だから、序盤、中盤に複数回繰り出される主人公の「毒言葉」は、著者によって「わざと」仕掛けられたものなんだと私は思った。
私が「本屋大賞は無理」と言ったのは面白くなかったからではなく、面白くするために、テーマを炙り出すのための「仕掛け」を作りすぎていると思ったから。その他、母親を若年性アルツハイマーにしたり、シェアハウス住人に同じような過去を被せたり、いろいろと仕掛けている。
主人公の「毒言葉」は、1番大きなテーマのための伏線だった。あとはそれを展開するしかない。

エンタメとしては素晴らしいし楽しかった。最後まで読み通したいとは思った。悪い作品ではない。けれども、先読みできる仕掛けをたくさん仕掛けてはダメだと思う(せめて一つにするべき)。要は期待し過ぎたのだ。「52ヘルツのクジラたち」がそんなものではありませんように。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: は行 フィクション
感想投稿日 : 2022年4月19日
読了日 : 2022年4月19日
本棚登録日 : 2022年4月19日

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