シーソーモンスター (中公文庫 い 117-2)

著者 :
  • 中央公論新社 (2022年10月21日発売)
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感想 : 261
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伊坂幸太郎が、螺旋「企画」の仕組みをかなり詳しく話してくれている。そもそも編集者の思いつきを、彼の発案で「企画」にまでに具体化して、大きな約束事は8人の作家全員で決めたらしい。

実は螺旋シリーズはこれで2冊目。最初は朝井リョウの作品を、そうとは知らず4年前に読んだ。かの作品は平成を舞台にしているから、話を大きく出来ないだけあって、内に内に籠るストーリーで、好きにはなれなかった。伊坂さんは中編一話目がスパイもの、二話目が近未来もの、ということで、サービス精神いっぱい、テーマも国家構造にまで及んで、私の好みだった。

「人間の歴史は、全部、争いだろ」
「え」
「争いの合間に小休止があるだけじゃないのか」
(略)
「だけど、争えば人は傷つくし、物も壊れる。ないほうがいい」
愛読していた子供向けの本のことが頭によぎった。(略)その主人公マイマイが発する定番の台詞がある。「争わないほうが好ましい」僕はそのことを思い出した。「争いたくなる気持ちはわかる。だけど、争わないほうが好ましい」と心優しきマイマイは言うのだ。
「一人一人の気持ちだとか、目先の社会のことを考えれば、争いは悪いことかもしれない」檜山景虎は言った。「ただ、違う次元の話なら、争いはなくてはならないものだ。実験室でビーカーの中を撹拌するのと同じだ。かき混ぜなければ実験にならないだろ」(略)「できるだけたくさんの方向性を増やす方向に、物事は進む。撹拌して、拡散する。だから争いは起きなくてはいけない」(236〜239p)

このように、突然「長い問答」が始まるのも「お約束」だったのだと、伊坂さんは打ち明けてくれている。言い出しっぺだから、かなり煮詰めたテーマをぶっ込んでいる。「人間の歴史は決して争いじゃないんだよ」と、私としては檜山くんに言いたいところではあるが、伊坂さんの言いたいのは、そこじゃない。「争いは人間の本能だ」とは伊坂さんは言ってない。檜山くん(伊坂さん)は、「とりあえず、この数千年間はそうなのだから、それで人類が進化した面は確かにある。でも、その渦の狭間でどうにか穏やかに生きていく努力は、平和をつくる努力は必要だ」という落とし所のようだ。うーむ、ちょっと違うかな。でも悪くはない。

この前、伊坂幸太郎トラウマから脱したばかりで未だぐずぐずしながら読んだ。割と長いことかかった。螺旋シリーズは、やはり手を出したくはない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: さ行 フィクション
感想投稿日 : 2023年11月29日
読了日 : 2023年11月29日
本棚登録日 : 2023年11月29日

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コメント 2件

傍らに珈琲を。さんのコメント
2023/12/02

kumaさん、こんばんは~☆

螺旋シリーズ、手を出したくないのですね(*T^T)
実は大感動を胸に読み終えた私です。。。

kuma0504さんのコメント
2023/12/02

傍らに珈琲を。さん、
コメントありがとうございます♪
螺旋シリーズは、
古代の海彦山彦物語が好きなだけに、ホントは少しは興味あるのですが、
基本的に全部揃えようとする未来の自分が見えて嫌になるのです。
私は基本的に流行作家や流行小説は追わないと決めいます。
できるだけ、小説はファンになった人しか読まないようにしたい。
何故なら、そこにはまり込むと、読みたい本が無限に増えて行くから。
伊坂幸太郎は、文庫本は一時期ほぼコンプリートしつつあったので、ファンです。でも一冊がなかなか読めなくて今スランプ状態から少し抜け出し中。
螺旋シリーズコンプリートするのは避けたい。自分の性格から、いろいろその世界観にいちゃもんつけそうな気がする。

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