伊坂幸太郎が、螺旋「企画」の仕組みをかなり詳しく話してくれている。そもそも編集者の思いつきを、彼の発案で「企画」にまでに具体化して、大きな約束事は8人の作家全員で決めたらしい。
実は螺旋シリーズはこれで2冊目。最初は朝井リョウの作品を、そうとは知らず4年前に読んだ。かの作品は平成を舞台にしているから、話を大きく出来ないだけあって、内に内に籠るストーリーで、好きにはなれなかった。伊坂さんは中編一話目がスパイもの、二話目が近未来もの、ということで、サービス精神いっぱい、テーマも国家構造にまで及んで、私の好みだった。
「人間の歴史は、全部、争いだろ」
「え」
「争いの合間に小休止があるだけじゃないのか」
(略)
「だけど、争えば人は傷つくし、物も壊れる。ないほうがいい」
愛読していた子供向けの本のことが頭によぎった。(略)その主人公マイマイが発する定番の台詞がある。「争わないほうが好ましい」僕はそのことを思い出した。「争いたくなる気持ちはわかる。だけど、争わないほうが好ましい」と心優しきマイマイは言うのだ。
「一人一人の気持ちだとか、目先の社会のことを考えれば、争いは悪いことかもしれない」檜山景虎は言った。「ただ、違う次元の話なら、争いはなくてはならないものだ。実験室でビーカーの中を撹拌するのと同じだ。かき混ぜなければ実験にならないだろ」(略)「できるだけたくさんの方向性を増やす方向に、物事は進む。撹拌して、拡散する。だから争いは起きなくてはいけない」(236〜239p)
このように、突然「長い問答」が始まるのも「お約束」だったのだと、伊坂さんは打ち明けてくれている。言い出しっぺだから、かなり煮詰めたテーマをぶっ込んでいる。「人間の歴史は決して争いじゃないんだよ」と、私としては檜山くんに言いたいところではあるが、伊坂さんの言いたいのは、そこじゃない。「争いは人間の本能だ」とは伊坂さんは言ってない。檜山くん(伊坂さん)は、「とりあえず、この数千年間はそうなのだから、それで人類が進化した面は確かにある。でも、その渦の狭間でどうにか穏やかに生きていく努力は、平和をつくる努力は必要だ」という落とし所のようだ。うーむ、ちょっと違うかな。でも悪くはない。
この前、伊坂幸太郎トラウマから脱したばかりで未だぐずぐずしながら読んだ。割と長いことかかった。螺旋シリーズは、やはり手を出したくはない。
- 感想投稿日 : 2023年11月29日
- 読了日 : 2023年11月29日
- 本棚登録日 : 2023年11月29日
みんなの感想をみる