ブラック企業2 「虐待型管理」の真相 (文春新書 1003)

著者 :
  • 文藝春秋 (2015年3月20日発売)
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5

大佛次郎論壇賞の前著から2年半、この本の役割は大きかった。流行語大賞にも選ばれ、政府も取り締まりを強化した。しかしブラック企業はなくならない。それどころか、いまだに被害者の多くはブラック企業に積極的に入社し、また、自ら「辞めない」で働き続けている。著者は単なる研究者ではない。自ら労働相談を組織し、年間2000件以上の労働相談と関わってきた運動家でもある。だから、この本は単なる社会現象を分析・批判するのではなく、それでも被害がなくならないことに直面した者が試行錯誤しながら、その処方箋を作ろうとしているレポートになっている。そういう意味で高く評価したい。

34Pの「上位6疾病の傷病別件数の構成割合」グラフ(社会保険給付の推移)を見てビックリした。「精神及び行動の障害(つまりウツ等の精神疾患)」だけが、見事に98年から急上昇して、2008でトップになって高止まりしているのだ。派遣労働の普及からリーマンショックの時までに、健康でフルタイムで働いていた若者が壊れていく仕組みが完成したのである。ブラック企業が、社会状況と法整備を受けて、自覚的に増えてきたのがこの表一つからも分かる。こんなことを放置していたのでは、国家財政も壊れるし、社会資本も衰退する。だから、政府・行政も動かざるを得なかった。ただし、その動きはちまちましていて、立法府の動きは反対方向に向いているのは、ご承知の通り(派遣法は改悪されたが、残業ゼロ法案は見送られた。運動の成果である)。

詳しく紹介出来ないので、目次をコピーしてある程度略したい。

【目次】
第1章 わかっていても、入ってしまう
第2章 死ぬまで、辞められない

実は「異常な精神状態」こそがもっとも苛烈に働いている状態であり、この状態を長く持続することこそが利益の源泉となる。そうであれば、「異常な精神状態の持続」にこそ、このマネージメントの本質があるのではないかと疑われる。(114p)

第3章 絡め取り、絞りつくす

ブラック企業はこの日本型雇用の「幻想」をうまく活用している。若者は、旧来の日本型雇用のように、ブラック企業でも「頑張れば報われる」「成長できる」と思っている。だから「挑戦するのだ」という気持ちで入ることも、過酷な状況で頑張り続けることも、入社の当初は自分自身の決断だったわけだ。(150p)

第4章 国家戦略をも浸食するブラック企業
第5章 なぜ取り締まれないのか?

ここでは、正義の味方であるはずの労働基準監督署がいかに頼りにならないかが説得力もって書かれている。これに関して、私は最近象徴的な一言を、私が関係している労働相談の被害者から聞いた。労基署に相談にいくと、署員は「会社と労働者を平等に扱う」と言ったというのだ。労基署は言うまでもなく労基法の精神にのっとり設置されている。労基法は、そのままでは労働者は会社よりも弱い立場にあるので団結権や様々な権利を与えて労働者を「守る」ために作られた法律である。労基署職員が「会社と平等に扱う」ようでは、結果的に会社寄りの結論を出すのは目に見えているだろう。

ここでは、駆け込み寺としてのユニオン(組合)や弁護士団体のことも書かれている。しかし、交渉が解決すればすぐに労組を離れてしまう「モグラたたき」交渉の問題点もきちんと書いている。今回の巻は、このようにかなり実践的な記述に頁を割いているのに特徴がある。

第6章 奇想天外な「雇用改革論」

現在の雇用改革案をことごとく切っているのは好感が持てる。

第7章 ブラック企業対策――親、教師、支援者がすべきこと

これらの改革案を実現するには、現実の政策の大転換が必要である。「会社が世界一活動しやすい国家を目指す」と言っている首相のもとではなかなかむつかしいことは確かだろう。
2015年6月読了

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: は行 ノンフィクション
感想投稿日 : 2015年8月2日
読了日 : 2015年8月2日
本棚登録日 : 2015年8月2日

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