仙台ぐらし

著者 :
  • 荒蝦夷 (2012年2月18日発売)
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感想 : 295
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私の利用している県立図書館は、本を一冊しか買わない。何処かの県がしているように、人気図書は何冊も買って出版社から文句を言われるような真似はしない代わりに、人気作家の本は予約待ちで何年も待つというのはザラである。伊坂幸太郎はそのザラの中に入る。伊坂幸太郎で検索をかけた時も、すぐに借りれる本が見つかるとは思っていなかった。お気に入りの作家の近況を調べるような気持ちだった。だからこの本が「貸出可」になっているのを見た時には驚いた。別にアンソロジーの中に一短編紛れ込んでいるわけでもない、紛れも無く一冊の独立した著書なのである。地方出版社発行だったかもしれない。それにしても、忙しくて読み損なっていて二週間後に再貸出を頼んだ時も予約が入っていなかったことには、何かの問題がこの作品にはあるのかとさえ思った。

読み始めて、またビックリした。小説にぜんぜん引けを取らない、何処を取っても伊坂印の見事なエンターテイメント作品に仕上げていた。

最初の「タクシーが多すぎる」こそは、話が出来過ぎているなあ、と思っていたらやはり創作だったけど、あとはホントにエッセイになっている。しかし、出来るだけオチをつけようとしているし、根っから「楽しいことを書きたい」作家なのだ。

このエッセイの貴重なのは、それでも何処にも発表しなかった震災直後の著者の気持ちが赤裸々に綴られている処である。

「役に立たない人間ほど、よく泣く。そういう諺があってもいいように感じる」

高橋克彦も「小説の無力」を嘆いていたが、伊坂幸太郎もやはり震災直後にそういう気分に陥ったらしい。気持ちを切り替えるのが早かったのは、伊坂が若かったせいか。

最後に震災ボランティアに従事している人たちをモデルにした未発表の小説もついている。

なかなかの一冊である。
2013年5月16日読了

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: さ行 ノンフィクション
感想投稿日 : 2013年6月6日
読了日 : 2013年6月6日
本棚登録日 : 2013年6月6日

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