町田くんの世界 3 (マーガレットコミックス)

著者 :
  • 集英社 (2016年3月25日発売)
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本棚登録 : 684
感想 : 29
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もう、何なんでしょうね、返しがたっぷりと付けられた槍が、防壁を呆気なくブチ破って、心に突き刺さる感じぁ
読み終わった後に、こうもダメージを負う少女漫画は、それこそ、『ハチミツとクローバー』以来ですね
当分、死ぬ気も殺される気もないんですが、億が一に漫画を読み終わった瞬間に死んでしまうとして、その時に読んでいた漫画が、この『町田くんの世界』なら、まだ、心残りを持たずに逝ける気がします。まぁ、もちろん、ifの話で、『ONE PIECE』、『七つの大罪』、『双亡亭壊すべし』の最終回も読んでないのに、ぽっくり死ぬわけにはいきませんが。自分の目と指で漫画を読めるうちは死なない、根拠のない自信を持ってこその漫画読みでしょう
何故、毎度、凹むのを承知で、私は『町田くんの世界』を読むのか、答えは凹むためです
自分が、どれだけ汚れているか、を自覚するには、この『町田くんの世界』は持ってこいなんですよ。実際、私だけじゃないでしょう、主人公の町田くんの心の無垢さにダメージを負って、己を省みて、余計に落ち込んでいるのは
どうして、好き好んで、自分の汚さに絶望するような真似をするんだ、と不思議がる人もいるでしょう
これまでのレビューを読んで、私のことを分析している人がいたなら察しが付くと思うが、私はついつい、調子に乗りすぎるトコがあります。ちょっと仕事がトントン拍子に巧く進んだことで鼻が高くなり、いざって時にドジりかけ、冷や汗をかいた事は一度や二度じゃありません
自制と自戒を促せるだけの克己心が身に備わっていれば問題ないのだが、なかなかに身に付きません。そこで、私は漫画の力を借りているんです
安藤先生に知られたら、ショックを受けられる事は確実でしょうねぇ
あくまで、これは私個人の印象ですが、『町田くんの世界』の面白さの本質に近づけるのは、毎日のストレスで心がいくらかやさぐれちゃっている人間のような気がします
ぶっちゃけた話、町田くんみたいにピュアな心の持ち主じゃ、この現代世界、キツいでしょう、生きていくのは。綺麗な分、負う傷も深くなり、三日ほど自我を守れたら大したものですよ
かといって、マンガだから、事が巧く進んで、ピュアなままでいられる、と安易に纏めてしまうのも惜しい気がします
きっと、安藤先生は根っからのイイ人なんじゃなくて、先生本人が町田くんみたいになりたいからこそ、この漫画を描き続けているんじゃないかな、と想像しながら読んでいます
同時収録されている『愛ある生活』にも、安藤先生らしさ、いわば、安藤イズムがほんのりと光っているようです
『町田くんの世界』には、ちょっと少ないラブコメ要素を盛り込みつつも、話の主軸は、温かみのある人間性です
安藤先生にも、丁度いい執筆ペースがあるのは、ファンとして千も承知だけど、また、読み切り集を世に出してほしいもんです
オススメの話は、やはり、町田くんの不器用なウィンクの破壊力がデカすぎな、第9話「世界は美しい」です。世界の美しいトコから、目を逸らさずに視るって、ある意味、得難い才能ですよねぇ
この台詞を引用に選んだのは、安藤イズムが濃厚だからですね。自分の生き方を計るモノサシを持っておく事が男には重要。けれど、そのモノサシは自分の価値を計る為だけに使わねばならない。他人の生き方を計ってしまうと、自分も相手も傷つけてしまうんだから。自分とは違うモノサシを他人が持っていて当たり前、モノサシは自分の中にも、他人の中にも、そして、世界の中にも何百本とある、と思えるようになった時、長い人生を歩いていくのに必要な杖ともなるモノサシは長く、丈夫になるんでしょう

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: コミック(集英社)
感想投稿日 : 2016年8月27日
読了日 : 2016年7月31日
本棚登録日 : 2016年3月25日

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