ハワーズ・エンド (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-7)

  • 河出書房新社 (2008年5月12日発売)
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感想 : 26
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「ネコは家につく」なんて言葉があるけれど、人も家につくタイプがいるのだな。先日読んだハーディの「テス」といいウォーの「ブライヅヘッドふたたび」といい、イギリスの小説は情景描写が美しく目の前に景色が広がるようだ。嗚呼憧れのハワーズ・エンド。わたしにとってのそれは、どこにあるのだろう。
自分も東京という都会に住んでいるので、ロンドンに住み流れ行く人や物に不安を覚えるマーガレットの気持ちはなんとなくわかる。「人をたくさん知れば知るほど、代わりを見つけるのがやさしくなって、それがロンドンのような所に住んでいることの不幸なんじゃないかと思う。わたしはしまいには、どこかの場所がわたしにとって一番大事になって死ぬんじゃないかという気がする」
そう気付きながら、自分とかけ離れた考えの男と自分を「結びつけ」ようとするマーガレット。この「結びつけようとする」ことが難しく見えて初めからやる気にならない事が多い私にはマーガレットが超人に見える。自分が認められる前に相手を認めること、とはよく言われるけれど、言葉で言うほど簡単ではないと思うから。
それにしても家って不思議なもので、そこは誰かが住んでいないと「家」ではなくて、ただの建物に過ぎない。しかし住んでいる(あるいは住んでいた)からといって、そこが自分にとってほんとうの「家」といえるとは限らない。自分がそこにいるべき場所、マーガレットにとってはそれがハワーズ・エンドだったのだけれど、こういう場所はみんながみんな見つけられるわけではないから、見つけられたならその人は幸福だ。ハワーズ・エンドになんの未練もなかったウィルコックス氏その人が結局はそこを住処にするのが妙。マーガレットの結びつける力、恐るべしである。
人と人との関係だけでなく、人と場所との関係を描いた小説でもある。今の自分の居場所に疑問を感じている人が読むと、共感できるのではないだろうか。関係性の築き方も参考になるかもしれない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外文学
感想投稿日 : 2017年10月3日
読了日 : 2017年10月3日
本棚登録日 : 2017年9月29日

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