荒井良二さんの絵は、たくさんの色を使って、ベタッとラフに描いている印象を受けるが、そこから不思議と、現実味を帯びた温かみと懐かしさを感じさせられて、私の心の中の思い出の映像を覗いたら、きっとこんな感じなんだろうなと思う中で、空や海などのシンプルなものについては、細かいグラデーションや光の表現が繊細に描かれた上に、その場所の温度や湿度といった肌で感じられるものも漂わせている、写実的な美しさがとても印象的です。
『あさになったので まどをあけますよ』
扉絵のカーテンから始まる、この絵本は、たとえ昨日何があろうとも朝は必ずやって来て、新たな一日が始まる中で実感させられるのは、変わらないものがあるということであり、それはまるで、常に流動的な現代社会に於いて、とても心強く安心感を得られるようでもあり、平和の象徴にも感じられます。
そして、それを実感するには、カーテンを開けるだけではなく、あくまでも『まどをあける』のであり、そこにはきっと、お互いに境界線のなくなったもの同士が共有しあえる、風が届けてくれる空気感であったり、匂いであったり、ガラス越しでない剥き出しの景色や音であったりと、人間の五感で感じることによって、改めて、私は生きていることを実感させてくれる、大切な瞬間なんだと思います。
また、今いる部屋の窓を開けても、何も感じないんだよという人でも、そこは視点を変えてみて、それならば、自分の好きな場所を部屋にしてしまえばいいといった、そんな開放感に満ちた発想の転換も、素敵な絵で教えてくれる、これまで読んだ荒井さんのメルヘンチックな印象とはまた違った、リアリスティックな描写には、本書のメッセージも重なって、より胸を打たれるものがありました。
- 感想投稿日 : 2023年5月13日
- 読了日 : 2023年5月13日
- 本棚登録日 : 2023年5月13日
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