人から人へ、チェロを通して繋がっていく、世界の温かさや人生の素晴らしさを知り、更に元を辿れば自然から繋がっていたことを知り、その途方もない悠久の時に想いを馳せつつ、眠ってしまった主人公。
素敵な音を奏でるチェロの中には、おそらく、おじいさんが育てた森の木も含まれている。そのチェロには、何百年にも及び、森の木が見たり聞いたりしてきたことを歌っているだろうと思った主人公は、すごく純粋で感受性の強い子かもしれない。
しかし、人は本来、自然から生まれてきた存在で、そうした想いに至ることは、きわめて当然なことなのではないかと考えると、この絵本で教えてくれることは、すごく大切なものだと思い至る。
もしかしたら、子供の頃に読んでも、あまりピンとこないかもしれない。木だって、命があり生きていることは、多感な子供時代において、つい忘れがちになりやすい。だが、大人になって読んだ時に、記憶の奥底に眠っていたそれにようやく気付いて、こんな大切なことを伝えようとしていたのだということを知って、感傷に耽る。木の年輪を撫でながら想いを馳せる主人公を見ていると、なんともいえない気持ちが湧き上ってくる。
いせひでこさんの、滲みがかった水彩画は、人を小さめにして、背景の四季折々の自然の雄大さを表現しており、木漏れ日の差す夏の森や、文字のない冬の森の一枚絵はため息が出るほどの美しさです。
「マキちゃんのえにっき」で、いせひでこさんも、娘さんの麻木さんもチェロを弾いていたことを知って、その想いの丈が詰まったのであろうと思われる、素晴らしい絵本だと思いました。子供の頃に分からなくても、大人になるまで大切に取っておきましょう。いつかきっと、その大切さ、素晴らしさに気付くときがやってくるはず。
- 感想投稿日 : 2021年4月18日
- 読了日 : 2021年4月18日
- 本棚登録日 : 2021年3月27日
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