私たちが星座を盗んだ理由 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2014年4月15日発売)
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感想 : 205
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『5つの物語すべてに驚愕のどんでん返しが待つ』

『優しく、美しく、甘やかな世界が、ラストの数行で残酷に反転する衝撃は、快感ですらある』

との事だが、私には驚愕というよりは、「おお!」と感心させられた印象を持ち、残念ながら、快感を覚える程の衝撃は感じなかった。
そもそも、これって、どんでん返しなのか?

とは書きつつも、別に北山さんのミステリ論を否定するつもりはなくて、なんというか、渋いところ付いてくるなというのが一つと、どんでん返し以上に印象深かったのが、伏線の見事さで、これは、どの作品もそう感じたが、特に「恋煩い」と、真相を知った後の「妖精の学校」は、思わず読み返したくなるほどの素晴らしさで、「なるほどね~」と。

また、物語のジャンルも、高校生と恋とおまじないが絡み合った「恋煩い」、謎の孤島で目覚めた少年に、ここは一種のネバーランド? と思わせる、「妖精の学校」、借金を背負わされた男が、事故死した彼氏のことを知らない彼女と、彼氏の振りをして、メールのやり取りをする展開がスリリングな、「嘘つき紳士」、石喰いというファンタジー要素が、人間心理の奥を揺さぶる、「終の童話」、姉の同級生に恋していた妹の思いと、姉の思いの交錯が切ない、表題作の「私たちが星座を盗んだ理由」と、様々で飽きさせない。

しかし、私が最も心に残ったのは、いずれも、過去に自己嫌悪に苛まれる出来事を持った主人公が、まるで、それを償おうとするかのように行動しようとするけれど、結局、反転させられる事に、「ほら、やっぱりね」と肯きたくない気持ちが強かった事で、特に「終の童話」に至っては、あれを責めるには、あまりに無慈悲なのではないかと思わせるくらい、彼がずっと抱き続けてきた彼女への思いの一途さは尊いと思ったのだが・・まあ、結末自体はあんな終わり方なので、人それぞれの捉え方が出来る点に、まだ救いがあるのかもしれないし、こうしてみると、自己嫌悪しながらも、それを忘れずに、なんとか前を向こうとしてるのだから、そうした点に、人間の善悪両方の面を持ちながらも、どこか自分に対する厳しさをちょっと覗かせるところに、愛おしさを感じられたのは、良かったのかもしれない。

それにしても、「恋煩い」は惜しかったなぁ。
私の中では、5つの短編の中でダントツの好みだったが、最後の衝撃的な一文を、その前の解答編でなんとなく推測出来てしまったのが、その衝撃度を下げてしまったようで残念だった。

しかし、それでもあれは、ここ最近読んだミステリの中に於いて、久々に体験させてもらった、周囲の気温が2~3℃下がったんじゃないかと思わせる、そんな感じと言えば分かってもらえるだろうか。

というわけで、「恋煩い」は、今の季節に間違いなくおすすめの作品です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2023年7月18日
読了日 : 2023年7月18日
本棚登録日 : 2023年7月18日

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