とんこつQ&A

著者 :
  • 講談社 (2022年7月21日発売)
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本棚登録 : 3369
感想 : 371
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初出は、「群像」2020年7月号~2021年12月号で、そのまま発表順に掲載された、四つの中短篇は、これまでの不穏さも含ませつつ、更に、人間の見えざる悪意に踏み込んでいるような、問題提起をさり気なくしている感じが、逆に恐怖感を覚えるという・・特に、真ん中の二篇は、最早笑えない領域に達したのかもしれないが、それは、今村夏子さんが本気で訴えたい思いの裏返しとも、感じられました。


それぞれの物語で気になったことを、少し…

「とんこつQ&A」
『むらさきのスカートの女』を彷彿とさせるような、他人の中に自分自身を見出した女性の、その好きな想いと嫉妬心は紙一重であるとともに、実は、相似性があるのではないかと思えた事に、奇妙な爽やかさを感じられたが、終盤の、現実の世界を離れた展開は、いつも通りの安定感で怖すぎる。

「嘘の道」
実際に、こういう、いじめ対策しかしていないのに、やるべき事はやったとか、学校側が平気で弁解しそうな、そんなリアル感に、現在のいじめ問題の一つの縮図を見た思いがしたが、ここでの問題は、また別のところにあり、幻想に対して現実感を作り上げようとする、その人間の悪意の無感覚さが、客観的視点で見ている私からしたら、とても怖く、そしてやるせない。

「良夫婦」
最も笑えなかった作品がこれで、『罪の意識』という言葉が、この人の頭の中の辞書には載っていないのかと、思わず、心配してしまうが、当の本人達が全く意に介さずにいるところは、恐怖というものを通り越して、哀れであり、タイトルの言葉を実感しているのは、おそらく本人達だけなんだろうな。
私としては、是非、学校の道徳の教材に採用して欲しいと、強く願いたい。

「冷たい大根の煮物」
人間とは、善人でもあり、悪人でもあるし、そのどちらでもない、不可思議な存在ではあるが、その結果が、決して悪くなるとは限らないといった、お話で、不穏な世界においても、未来は変えられるのかもしれない、そんな希望を私に見せてくれた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2022年12月7日
読了日 : 2022年12月7日
本棚登録日 : 2022年12月7日

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コメント 7件

チーニャ、ピーナッツが好きさんのコメント
2023/01/15

たださん、こんにちは!
フォローやいいね、いつもありがとうございます。
今回、「木になった亜沙」を読み「とんこつQ&A」の方まで、
たださんのレビュ―等も含めてまた、再読させていただきました。

両作品とも、たださんは
私には到底及ばない深い読み込みをされている!と感じました。

「とんこつ…」の方は、私も近い感じで読めたかなぁと思いホッとしました。
でも、特に「木になった亜沙」の方は私は直接的な衝撃が私にとって強くて、表面的な文章に
のみ込まれただけだったなぁ…と
たださんのレビューを読んで
わかりました。
「木になった亜沙」の本の
たださんのレビューでこの本の深さに、気がつけたように思いました。
それで嬉しくなって、
こちらのレビューの方に思いきってコメントしました。ありがとうございました。
これからもどうぞよろしくお願いします m(__)m

たださんのコメント
2023/01/15

チーニャ、ピーナッツが好きさん、こんばんは。
コメントありがとうございます。

そして、こちらこそ、いつもフォローやいいねをありがとうございます(^^)

今村夏子さん、ずっと読まれているのですね。私の場合、深い読み込みというよりは、昔の体験もあるのかもしれません・・ただ、内容が全く同じというのではなくて、不器用に生きる人達と似たような心境になり、共感できるといいますかね。まあ、大抵は不穏な影しか見せませんけどね、今村さんは(笑)

それから、「木になった亜沙」が、衝撃的に思われたのも分かる気がします。だって、○○○○になるのですものね。でも本書は、おそらく、そうした見た目の姿は関係なく、内面を見て欲しかったという気持ちが、ようやく報われたところに彼女の存在意義を感じられたようで、私は嬉しかったですよ。

それに、作品への感じ方は、人それぞれ違うと思いますし、何が正解というのも無いと思いますし(今村さんの心の中にはあるのだろうか)、あまり気になさらず、自分の書きたいように書けばいいと思うのですが、でも、嬉しいです。というか、照れ臭いですね。ありがとうございます。こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m

あ、それから、村田沙耶香さんの「信仰」読まれてるんですよね。村田さんの様々な顔を見せてくれる、私も好きな作品なので、レビュー、楽しみにしております(^^)

チーニャ、ピーナッツが好きさんのコメント
2023/01/15

たださん、コメントありがとうございます(*´▽`*)
「木になった亜沙」を読んですぐの勢いでレビューしてしまいまして…。でもどうしてもいつまでも気になってスッキリできずにモヤモヤしていたのです。

そうですね。ようやくわかりました。内面を見て欲しかったという、自分の気持ちがようやく報われることって凄く嬉しい事ですね。誰でも存在意義を感じたいという気持ちはありますし、それは大切なことです。
今また、少し本をめくってみたら感じました。亜沙が凄く喜んでいる様子が文面からヒシヒシと伝わってきました。
私だけで始め読んだときは一気読みして、他の部分に気を取られてしまって気づけなかったです (>_<)

たださんに教えていただいたのでやっとストンと心に収まりました。
良かったです。ありがとうございましたm(__)m

「信仰」読んでますが、これもまた私には難しい本でして…焦っています―(汗)
これからもまた、よろしくお願いします!!

たださんのコメント
2023/01/16

チーニャ、ピーナッツが好きさん、お返事ありがとうございます(^^)

再読したり、時間を置くと、改めて伝えたかった事や魅力に気付いたりする事、ありますよね。私も一読して、「なるほど、こういうことか」と思える事の方が少ないですし。

ただ、それはそれで気にせず、頭の片隅に留めておくと、ある日いきなり、こういうことなのかもと感じたりして・・それが寝る直前に多いので、内心面倒くさいのですが(笑)、スマホ起ち上げて忘れないうちに、メモ書きしてしまいます。そんな事してたら、また眠れなくなるから早く寝ろよと思いつつ、つい、やってしまいますね(^^;)
話が逸れてしまい、失礼いたしました。共感して下さり、ありがとうございます。モヤモヤが解消されたようで、良かったですね。

「信仰」、難しいですか。
今村さんのように、村田さんもいくつか作品を読んでいけば、何となく共通性を感じられるかもしれません・・私、村田沙耶香さんについては、ほぼ全ての作品を読んできまして(好きなので)、途中で一度、テーマが大きく変わった気がしますが、根本的な部分は共通したものを感じております。

「信仰」の少し前に、「生命式」という短篇集があるのですが、もし機会がありましたら、そちらも読んでみる事をおすすめします。割と感覚的に似通った点があり、村田さんの世界の理解に繫がるのかもしれません。

チーニャ、ピーナッツが好きさんのコメント
2023/01/16

たださん、こんばんは!
こちらこそ、ありがとうございます\(^-^)/
そうなんですね。たださんにも
そういう事、あるんですね…。
私は結構、いつまでもモヤモヤしてしまい、次の本になかなか、いけなくなったりしがちなので―(汗)
今回はたださんに、助けてもらいました(>.<)y-~
なるほど…わかりました。
ありがとうございます!

それから村田さんの「信仰」ですね。読みました~。難しく感じるところもありましたが、読み終わってみると面白いなぁと感じました。「コンビニ人間」も好きだったのですが、「信仰」も良かったです♪
これから村田さん読んでいきたいと思うので今度、図書館行くときには「生命式」ですね~。
おすすめありがとうございます。
楽しみです(*´▽`*)

たださんのコメント
2023/01/17

チーニャ、ピーナッツが好きさん、こんばんは。

「信仰」、読み終わったのですね。好印象のようで良かったです(^^)

チーニャ、ピーナッツが好きさんのコメント
2023/01/17

たださん、こんばんは!!
⭐五つにしようかな?と、
とても迷うくらいとても好きな本だと思いました―
ありがとうございました(*´▽`*)

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