初出は、「群像」2020年7月号~2021年12月号で、そのまま発表順に掲載された、四つの中短篇は、これまでの不穏さも含ませつつ、更に、人間の見えざる悪意に踏み込んでいるような、問題提起をさり気なくしている感じが、逆に恐怖感を覚えるという・・特に、真ん中の二篇は、最早笑えない領域に達したのかもしれないが、それは、今村夏子さんが本気で訴えたい思いの裏返しとも、感じられました。
それぞれの物語で気になったことを、少し…
「とんこつQ&A」
『むらさきのスカートの女』を彷彿とさせるような、他人の中に自分自身を見出した女性の、その好きな想いと嫉妬心は紙一重であるとともに、実は、相似性があるのではないかと思えた事に、奇妙な爽やかさを感じられたが、終盤の、現実の世界を離れた展開は、いつも通りの安定感で怖すぎる。
「嘘の道」
実際に、こういう、いじめ対策しかしていないのに、やるべき事はやったとか、学校側が平気で弁解しそうな、そんなリアル感に、現在のいじめ問題の一つの縮図を見た思いがしたが、ここでの問題は、また別のところにあり、幻想に対して現実感を作り上げようとする、その人間の悪意の無感覚さが、客観的視点で見ている私からしたら、とても怖く、そしてやるせない。
「良夫婦」
最も笑えなかった作品がこれで、『罪の意識』という言葉が、この人の頭の中の辞書には載っていないのかと、思わず、心配してしまうが、当の本人達が全く意に介さずにいるところは、恐怖というものを通り越して、哀れであり、タイトルの言葉を実感しているのは、おそらく本人達だけなんだろうな。
私としては、是非、学校の道徳の教材に採用して欲しいと、強く願いたい。
「冷たい大根の煮物」
人間とは、善人でもあり、悪人でもあるし、そのどちらでもない、不可思議な存在ではあるが、その結果が、決して悪くなるとは限らないといった、お話で、不穏な世界においても、未来は変えられるのかもしれない、そんな希望を私に見せてくれた。
- 感想投稿日 : 2022年12月7日
- 読了日 : 2022年12月7日
- 本棚登録日 : 2022年12月7日
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