早朝始発の殺風景 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社 (2022年1月20日発売)
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本棚登録 : 2158
感想 : 135
4

本書は、前回読んだアンソロジーと一緒に借りたのだが、青崎さんの作品って、ミステリの切り口の面白さもそうだけど、それ以上に、若者の心の中の様々な機微を、面白くも繊細に描いている事に、とても好感を持ち(軽く扱わないというか)、これを読んで、青春時代の素晴らしさを実感する方も、おそらくいるのではないかと思うくらい、表現は現代的なのに、どこか普遍性も感じられました。

本書には、5つの短編が収録されており、世界観が共通しているものの、それぞれ単独で読めるような、いずれも若者の瑞々しくも、ちょっと切なくさせる会話のやり取りが、印象に残る。


「早朝始発の殺風景」
「殺風景」って凄い苗字だなと思ったが、彼女の凄さは苗字だけでは無かったことが、徐々に分かっていく展開も面白いし、偶然、一緒に乗り合わせた、「加藤木」とのホワイダニットのやり取りと、彼自身の異性をちょっと意識する(青春!!)葛藤との、ギャップも面白い。

「メロンソーダ・ファクトリー」
真田、詩子(うたこ)、ノギちゃんの、高二三人娘のユーモラスなやり取りの中に、キラリと光った大切なものの存在。それも彼女自身なんだよね、ということを心に刻み込む事で、更に彼女たちの友情が厚くなるのだと思うと、こういう謎解きもいいね。

「夢の国には観覧車がない」
私の中では、これがいちばん好きで、男子二人で観覧車に乗るだけの展開が、まさか殺人とは。
しかも、ここでは殺人の解釈がちょっとほろ苦く、そして温かく切ないという。言葉巧みなんだけど、巧みさだけではない、これは相手の気持ちに寄り添わないと分からないであろう、思いやりや優しさを感じられて、似たような経験を持つ方には、グッとくるものもあるのでは。
そして、この話における、次から次へと倒れていく論理的ドミノの気持ち良さは必読でして、『平成のエラリー・クイーン』、なるほどと。
また、私は千葉在住なので分かるのだが、地名や建造物に現実とフィクションを取り混ぜていて、実は、これにもちゃんとした意味があった事が分かり、それも合わさる事で、より切なさが増します。

「捨て猫と兄妹喧嘩」
両親の離婚に合わせて、別々になってしまった兄妹の微妙な距離感の葛藤に、妹が拾ってきた捨て猫が加わることで、新たな展開が始まりそうな予感には、兄妹2人にとって希望の始まりとも思え、それに謎解きが大きく貢献しているのも、心憎いばかり。

「三月四日、午後二時半の密室」
出来れば、作品紹介は読まないことをお勧めしたい、密室の解釈の独自性がまず印象的で、これ分かるなあ・・密室って正に閉じられた空間だもんね。だが、そんな苦しみも、ちょっとドジな探偵の手にかかれば、たちまち様変わり! というか、感情の振り幅に驚きだが、こうしたジェットコースターのように、一瞬にして感情が思いっきり、両極端に様変わり出来るのって、これも青春ならではの素晴らしさ、素敵さなのではないかと、共感すること間違い無いと思いました。
また、ここでは、他の話の人物との、ちょっとした繋がりもあって、それを見つける楽しさもあります。

それから、最後のエピローグの内容は、ここまで読んできた、読者へのご褒美のようにも思われて、それぞれの物語に愛着を持たれた方なら、きっと満足される内容かと思われますし、あの人物の後日譚も読めて、私はとても嬉しかったです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2023年2月19日
読了日 : 2023年2月19日
本棚登録日 : 2023年2月19日

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コメント 5件

111108さんのコメント
2023/02/19

たださん、こんにちは。

この本以前単行本で読んでたけど細かい所忘れかけてました。たださんレビューでポイント押さえたので再読します!
ラムネチョコさんの表紙が文庫本と単行本で微妙に違ってる所もオツですな♪

たださんのコメント
2023/02/19

111108さん、コメントありがとうございます(^^)

以前、読まれたことがあるのですね♪ 私は物語を楽しませてもらうだけでなく、青春時代の素晴らしさも思い出させてくれたようで、良い読後感でした(^o^)

そういえば、いつもの図書館、両方あったんですよ。私は、解説もある文庫本を借りたのですが、確かに、同じ雰囲気で青を基調としたイラストでしたね。

ただ、文庫本には、「水元さきの」さんと書かれていたので、気になって調べてみたら、「ラムネチョコ」さんから改名されたそうですね。涼しげな中にもポッと点るような感情も覗えそうな、心に残るイラストですよね。

111108さんのコメント
2023/02/19

たださん、お返事ありがとうございます♪

ラムネチョコさんは水元さきのさんになってたんですね!イラストの方の情報まで教えていただきありがたいです♪

青春‥遠〜い目になってしまいます(*´-`)
でもそこにある綺麗なだけでない、もやっとした思いも青崎さんは丁寧にくみとってるようで、たださん同様楽しめました♪

koalajさんのコメント
2023/04/16

たださん、こんにちは。
この本読んでみました。面白かったです!
何というか、今までにない新鮮さを感じました。どうしてそう感じるのか?一カ所の場面設定&登場人物は高校生だけ&ミステリー要素の掛け合わせからそう感じるのかなぁ。
青崎有吾さん、実は名前も知らなかったのですが、調べてみたら31歳、わっ若い!そして何と神奈川県の出身高校が私と同じじゃないですか!これはもう今後注目&応援をしていくしかないです。
ありがとうございましたー♪

たださんのコメント
2023/04/16

koalajさん、こんにちは。
コメントありがとうございます(^^)

そうなんですよね。高校生が登場する日常ミステリと言ってしまえばそれまでですが、切り口が斬新といいますか、それでいて、若者特有の建て前と本音の見事な描き方に、かつて学生だった私も共感できた、青春の素晴らしさを教えてくれた作品でした。

確かに青崎さん、若いですよね。ちなみに「館シリーズ」は、エラリー・クイーンを彷彿とさせる本格推理もので、他にも色々な作風があるそうなので、引き続き追いかけていきたいと思うのですが、実は図書館に全く無いんですよね。取りあえず、リクエストしてみようと思います。

koalajさんの、他の青崎さんの作品のレビューも、ぜひ楽しみにしております(*^_^*)

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