本書は、前回読んだアンソロジーと一緒に借りたのだが、青崎さんの作品って、ミステリの切り口の面白さもそうだけど、それ以上に、若者の心の中の様々な機微を、面白くも繊細に描いている事に、とても好感を持ち(軽く扱わないというか)、これを読んで、青春時代の素晴らしさを実感する方も、おそらくいるのではないかと思うくらい、表現は現代的なのに、どこか普遍性も感じられました。
本書には、5つの短編が収録されており、世界観が共通しているものの、それぞれ単独で読めるような、いずれも若者の瑞々しくも、ちょっと切なくさせる会話のやり取りが、印象に残る。
「早朝始発の殺風景」
「殺風景」って凄い苗字だなと思ったが、彼女の凄さは苗字だけでは無かったことが、徐々に分かっていく展開も面白いし、偶然、一緒に乗り合わせた、「加藤木」とのホワイダニットのやり取りと、彼自身の異性をちょっと意識する(青春!!)葛藤との、ギャップも面白い。
「メロンソーダ・ファクトリー」
真田、詩子(うたこ)、ノギちゃんの、高二三人娘のユーモラスなやり取りの中に、キラリと光った大切なものの存在。それも彼女自身なんだよね、ということを心に刻み込む事で、更に彼女たちの友情が厚くなるのだと思うと、こういう謎解きもいいね。
「夢の国には観覧車がない」
私の中では、これがいちばん好きで、男子二人で観覧車に乗るだけの展開が、まさか殺人とは。
しかも、ここでは殺人の解釈がちょっとほろ苦く、そして温かく切ないという。言葉巧みなんだけど、巧みさだけではない、これは相手の気持ちに寄り添わないと分からないであろう、思いやりや優しさを感じられて、似たような経験を持つ方には、グッとくるものもあるのでは。
そして、この話における、次から次へと倒れていく論理的ドミノの気持ち良さは必読でして、『平成のエラリー・クイーン』、なるほどと。
また、私は千葉在住なので分かるのだが、地名や建造物に現実とフィクションを取り混ぜていて、実は、これにもちゃんとした意味があった事が分かり、それも合わさる事で、より切なさが増します。
「捨て猫と兄妹喧嘩」
両親の離婚に合わせて、別々になってしまった兄妹の微妙な距離感の葛藤に、妹が拾ってきた捨て猫が加わることで、新たな展開が始まりそうな予感には、兄妹2人にとって希望の始まりとも思え、それに謎解きが大きく貢献しているのも、心憎いばかり。
「三月四日、午後二時半の密室」
出来れば、作品紹介は読まないことをお勧めしたい、密室の解釈の独自性がまず印象的で、これ分かるなあ・・密室って正に閉じられた空間だもんね。だが、そんな苦しみも、ちょっとドジな探偵の手にかかれば、たちまち様変わり! というか、感情の振り幅に驚きだが、こうしたジェットコースターのように、一瞬にして感情が思いっきり、両極端に様変わり出来るのって、これも青春ならではの素晴らしさ、素敵さなのではないかと、共感すること間違い無いと思いました。
また、ここでは、他の話の人物との、ちょっとした繋がりもあって、それを見つける楽しさもあります。
それから、最後のエピローグの内容は、ここまで読んできた、読者へのご褒美のようにも思われて、それぞれの物語に愛着を持たれた方なら、きっと満足される内容かと思われますし、あの人物の後日譚も読めて、私はとても嬉しかったです。
- 感想投稿日 : 2023年2月19日
- 読了日 : 2023年2月19日
- 本棚登録日 : 2023年2月19日
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